第41話 同級生との勉強会当日




 そうして時は流れ中間テストに向けての勉強会当日。現在は午前十時を少しだけ過ぎた辺り。普段と変わらぬ自宅のリビングのソファに座っていた晴人は、手元にあるスマホや壁時計に視線を行ったり来たりさせながらいつにもなくソワソワとしていた。

 ただ一つ、自宅がいつもと違う点を挙げるとするならば埃一つ落ちぬよう念入りに清掃されている事くらいか。



「もうそろそろ頃合いか……。渡はともかく、女の子をうちに呼ぶのは緊張するな」



 そう、結局のところ中間テストに向けての勉強会は晴人の自宅で行なうことになった。先程から、強いて言えば昨日辺りから彼彼女らの訪問の時間が近づく度に晴人の表情に緊張が滲んでいったのはそれが原因である。


 でなければ自分の部屋はともかく、リビング周辺を小まめに掃除するなど殊勝な心掛けはわざわざしない。そんな気が張った息子の姿を見た咲良からは他人事のようにげらげらと爆笑されたが、途中からは呆れた表情を浮かべながらも優しげな眼差しで清掃を手伝ってくれた。


 普段渡以外の友人を連れてこない晴人が同年代の友達を連れてくるのだ。きっと母親である咲良にとって思うところがあるのだろう。



「ったく、別に居ても良いのに母さんも空気を読んでか出掛けたし……」



 そもそも今回の勉強会は渡の家で行なう予定だった。本人もそのように考えていたらしいのだが、急遽親戚同士の集まりが渡の家で決まったようでお邪魔出来なくなってしまった。どうやら年に一度、ゴールデンウィーク中に親戚同士が集まるのが定番だったようなのだが、今回は予定が合わないという事で先送りになっていたらしいのだ。それがいきなり今日に決まったとの事。


 渡の彼女である夏菜の自宅は家庭事情が厳しいようで、勝手に人を招いてはいけないというルールがあるようだ。渡自身もそれを話している途中に眉を顰めながら苦々しい表情を浮かべていたので、相当難しいのだろう。


 よって残りの選択肢は晴人の自宅か由紀那の自宅ということになるのだが……晴人はすぐさま自分の家で勉強会をする事を提案した。



(っていうのも……)



 もし晴人が由紀那の自宅で勉強会をしたいと言えば、きっと彼女は少しだけ思案したのち了承してくれるに違いない。由紀那は高校では白雪姫と呼ばれているが、実はとても感情豊かで優しい心の持ち主だからだ。

 それは、出会ってから日が浅いとはいえ彼女と一緒にいた晴人が一番良くわかっている。


 だが、その選択をしないのは……。



(———あのモヤモヤは、きっと『嫉妬』だったんだろう)



 何も渡だけではない、自分以外の異性が由紀那の家に行くところを想像してみると、あの瞬間は胸がチクリと痛んだ。別に付き合っているとかそういう訳でもないにもかかわらず、だ。あくまでも思い浮かべただけだが、あの時の自分はなんと自分勝手だったのだろうか。『独占欲』と言い換えても良い。


 晴人は表情にはおくびにも出さずに戸惑うが、次には「俺の家で勉強会しようか」と口をついて出たのは言うまでもない。


 ただ、そんな晴人の様子は級友である渡にはお見通しだったようで、なんだか微笑ましげな顔をしていたのが印象的だ。それが経験してきた故の余裕かはたまた彼の楽観的な性格故かはわからないが、無性に腹が立ったので取り敢えず軽く肩を小突いておいた。


 閑話休題それはともかく


 晴人の家に集合する予定時刻は十時三十分。渡の場合は普段晴人と待ち合わせする時間ギリギリか遅れて到着するのが日常茶飯事なのだが、今回に限っては彼女である夏菜と一緒に来るとの事。夏菜は彼氏の級友という立場の晴人の家に初めて来るのだ。きっと渡なりの配慮なのだろう。



「……アイツもしっかり彼氏やってんだな」



 因みに勉強会の場所が晴人の自宅だと決まった際、渡はすぐにスマホで彼女に連絡を取っていた。「その日俺が迎えにいくから夏菜は家で待ってろよ」と親しげに、そして晴人に向けるものとは違う柔らかい笑みを浮かべながら通話していたのが印象的だった。見た目や性格も軟派な渡だが、普段から惚気ている通り彼女のことを大切にしているんだなと晴人が思ったのは秘密である。


 勉強会中に乳繰り合われるのは勘弁してほしいが、もし到着が遅れたとしても許してやろう。


 となると、消去法で誰がここに一番でやってくるのかというと……、



「由紀那、この前の待ち合わせのときに約一時間も早く着いてたしなぁ。真面目だから遅れたり時間ギリギリっていうのはないだろうけど、時間的にもうそろそろの筈」



 晴人は脳裏に可憐な白雪姫の姿を思い浮かべる。


 待ち合わせ、というのは言わずもがな由紀那と一緒に買い物に行ったときの事だ。あのとき互いが早く待ち合わせ場所に到着した理由が『楽しみだったから』と判明した瞬間顔を赤くして照れてしまったが、今にして思えばとても嬉しかった。


 口元を緩めて笑みを零しながら当時を振り返る晴人だが、その瞬間『ピンポーン』と軽快な音が鳴る。


 来たか、と晴人は思わず身を強ばらせるが、いつまでも緊張してても疲れるだけ。軽く深呼吸をして息を整えた晴人は、幾許かの心のゆとりを保ちながら玄関へと向かったのだった。

















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皆様お久しぶりです。別作品を集中しながら執筆していた所為か中々時間が取れずしばらく更新してませんでしたが、ようやく更新出来ました……! 大変遅くなりましたが新年一発目の更新です。明けましておめでとうございます。


これからも遅筆ながら更新を続けて参りますので、是非フォローや☆評価、♡ハート、コメント、レビューなどで応援して頂けると嬉しいです!!


あと紹介文にも記載しているのですが、この作品がなんと第28回スニーカー大賞【後期】一次選考を突破しました!! 嬉しいです!!

まだまだどうなるかわかりませんが、是非結果を見守っていて下さるとありがたいです!!

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