第39話 勉強会の提案




 ゴールデンウィーク明けでやや雰囲気がだらけた教室。

 昨夜SNSのタイムラインで風景画像を検索するのに夢中になった所為で夜更かししてしまった晴人は、ささやかな眠気を携えながら自分の席へ座った。


 すると、離れた席に座っていた級友が手を擦り揉んでこちらへやって来る。



「あの〜、晴人さぁん。例の件、考えてくれやしたぁ?」

「なんのことだ?」

「またまた惚けちゃって〜。結局有耶無耶になった中間テストに向けての勉強会の提案に決まってるじゃないですかぁ。あっ、もしかして連休明けでお馬鹿さんになっちゃったんですかぁ? もう、晴人さんのあんぽんたん♡」

「はっ倒すぞ、渡」



 普段通り渡と挨拶を交わすと、突如気味の悪い声音と笑みを浮かべた渡が人差し指で宙にハートをなぞる。取り敢えず言いたい事は理解したが、何やら最後辺りに巫山戯た言葉が聞こえたのでつい悪態をついてしまった。


 思わず眉を顰めながら口元をへの字に曲げてしまう晴人だったが、なにせ朝っぱらから野郎がうるうるした瞳を向けて来たのだ。顔が整っているとはいえ、流石にそれは免罪符には成り得ない。寝不足も相まって、キツいという言葉が思い浮かんでしまうのも仕方がなかった。


 晴人は大きく溜息を吐くと、じとっとした視線を渡へ向けた。



「つーか俺言ったよな? お前と二人だけならまだしも、彼女さんも参加するなら勉強会はナシだって」

「連休中に訊いたら大丈夫だってよ。向こうもテストがあるから、寧ろ晴人みたいな頭イイ奴と勉強出来るのは大歓迎だとさ」

「そういう事じゃないんだけどなぁ……」



 どうやらわざわざ確認をとって了承を得てきたらしい。


 連休前にも伝えた通り、複数人での勉強自体は別に良いのだ。もし解けない問題があった場合には互いに教えられるし、身近に同じ目標を持つ仲間が居たら励みにもなる。モチベーションの維持は難航必須なので、時に適度な休息を間に挟むのも良いだろう。

 いずれにせよ、良い刺激で切磋琢磨し合えるのは間違いない。


 問題は、その勉強自体に晴人が集中出来るのかどうかだった。



「なんだ、やっぱり俺が夏菜といちゃつくのが不安なのか?」

「そうだよ」

「心配すんなし。大量に赤点獲って放課後補修したり、課題漬けになるのは流石に勘弁。……陸上の選考にも響くし、ここは真面目にやんないとなー」



 へらへらとした笑みを浮かべている渡だが、その瞳の奥には真剣さが伺えた。テスト毎に一つ二つの赤点を獲ってしまっている渡だが、以前述べたように案外地頭や要領は優れている。


 飽きっぽい性格故これまで勉強にベクトルが向いていなかったが、真面目にテスト勉強に打ち込みさえすれば平均点、ひいては上位の点数を獲るのも夢ではない筈だ。


 それにどうやら渡は、連休前とは違いテスト勉強へのやる気があるようだ。

 ゴールデンウィーク中に何があったのかは不明だが……きっと、渡なりに思うところがあるのだろう。


 

(……ま、ここでぐらぐら気持ちが傾き掛けている俺も俺だが)



 こんな軽薄な態度だが、渡の真面目さも真剣さも伝わった。だが、晴人にとってもう一つだけ懸念材料が残っていた。



「って言われてもなぁ。渡の彼女と云えど、あんまり関わりのない異性と一緒に居るのは緊張するんだが。俺って陰キャだし」

「……例のあの子と着実に関係を育んでいるお前がそれ言う?」

「育んでいるなんてそんな仰々しい」

「言っとくが、この学校の生徒の中で彼女と話した回数が多いのは絶対に晴人だ。ましてやお前のこと気に掛けたり家に来たりするときた。もしそれがバレて微かに恋心を抱いているヤツらに知られでもしたら、お前血祭りか末代まで祟られるぞ」

「えぇ……」



 んな大袈裟な、と一蹴したいところだが白雪姫の影響力は侮れない。彼女は良くも悪くもこの高校の有名人。注目度は間違いなく高いだろうし、無表情とはいえ歴とした美少女なので、密かに恋心を抱く男子がいてもおかしくはないだろう。


 正直今まで気にした事はなかったが、級友の思わぬ指摘に晴人の表情が固くなる。一瞬だけちくりと胸が痛んだのは、気持ちを抱く人物が彼女に告白している場面を想像してしまったからか。


 晴人はそんな考えを振り払うようにして頭を小さく掻いていると、渡が驚く事を言い放った。



「それじゃあさ、勉強会にあの子も呼んじゃおうぜ」

「……は?」

「おいおい、そう訝しげな顔して睨むなよ。三人寄れば文殊の知恵って言うだろ? 頭の良い子が増えると俺も夏菜も勉強が捗るだろうし、お前だって知ってる奴が俺だけよりかは安心するかと思って」

「まぁ、確かにそれはそうだが……お前はいいのか?」

「おうよ。先入観があったとはいえ、失礼な態度をとっちまったのは変わりないからな。謝ってから、普通に話せる仲くらいにはなりてぇよ」

「渡……」

「それに、二人がどこまでいったのか根掘り葉掘り訊かねぇといけないしなぁ?」



 そう言って渡はにやにやとした笑みを浮かべる。

 たとえ白雪姫に関する内容を訊こうとしても、晴人一人では決して口を割らないだろうという考えを踏まえた上での提案のようだ。それが本音か、とたまらず晴人はじとーっとした視線を渡に向けるも暖簾に腕押し。


 はぁ、と困り果てたように頭を押さえた晴人は仕方ないとばかりに言葉を紡ぐ。



「……わかったよ。伝えてみる」

「おう、よろしく。ところで最近ポニテ姿だけど、なんかあっ———」

「記憶にゴザイマセン」

「記者会見とかで見る常套句じゃん……」



 そっと視線を横にそらすと、やや強引に会話による追及を終了させたのだった。












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お待たせ致しました!

久しぶりの更新です!!(/・ω・)/


あの、実を言うと……今日私の誕生日なんです、へへっ…………。

はい、また一つ年をとっちまいました。

これからも皆様に楽しんで貰えるようなラブコメをどんどん執筆していきたいと思いますので、是非とも応援していただければ嬉しいです!


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