悪夢
一瞬の静寂の後 ナニカの気配が
ズルズル引きずるように、足音が響く
その遅い足取りは急に、不自然なまでのリズミカルで軽佻な足音に変わる
やばいっ!瞬間的に体が拒否した
一心不乱に冷たくなったドアノブに手をかける
ガチャガチャ ガチャガチャ
ノブは応答してくれない 狂った様にその音は心臓に呼応する
ガチャガチャガチャ 乱暴に押したり引いたりする
それでも開かない 鍵がかかってるのか錆びてるのか開く素振りもない
開けよ!
そう思った矢先
ーチョウダイー
耳元に、這い付く様なねっとりしたおぞましい声がした・・同時に甘美な匂いが微香する
気付けば、足音は止まっていて、膝から自分は崩れ落ちていた
暫くして目頭を冷たい涙が潤み落ちそうになる
肩の力も一気に脱力した
息を整る暇も無く、ただ脱力感と恐怖感がごちゃ混ぜで息が出来なくなる
苦しい・・苦しい・・
気付けば後ろも確認せずに、ただ懲りずにノブに手をかけた
カチャ
それはなめらかに開いた音がして、押してもいないのに扉が開いた
部屋の中薄ぼんやりとして、ほのかに紅い光が灯り支配していた
目をこらすが見えない・・
何故だか立とうとするが、腰にうまく力が入らずガクガクする
必死におぼつかない足取りで、薄闇の中を探り、奥へ向かった
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
開けなければよかったんだ
折れ曲がったナニカが宙ブラリンに浮いていた
必死でその間接部はくっつきたがっているのに、それは酷く剥がれそがれていた
見てはいけないものだった
赤黒く、生ぬるく、濁りきった眼
底がなく窪んだ死骸
そう、それは誰かに操られた陽気なパペット
赤い帽子を被り、力なくうなだれた生気の無い無慈悲な微笑み
全てが深紅で染まっていた
ただ、その奇妙な操り人形の死に顔の半分が妖しい程に生前の生気を無慈悲に放ち
狂った美彩を闇の中で放置していた
静かに・・
ただ静かに微笑を濡らして・・少し離れた鏡で自分を見た
そして又、自分の顔も心も歪み、声にならない叫びをあげる
そこに映っていたはずの自分の顔が醜く削がれ、ぼやけ、溶けていた
顔無しの仮面の中に、はっきりとした憎悪に包まれた眼光がある
醜い生気を根こそぎ奪うような窪み・・溶けた瞳 恨みがましい狂気
後ろに誰かが立つ気配がした
恐ろしくて後ろすら振り向く余裕は無かった
そしてボトッと血なまぐさいナニカが目の前に転がった
ゆっくりと視界がスローに押し流されて瞬間、
何故か諦めた笑みが自分の顔を支配した
「チョウダイ」
綺麗な声が頭を掠める
瞬間、体が丸ごとねじ切られていきながらも、その人形(死体)に手を伸ばす・・
吊っていた糸が切れた
死体の四肢が捻れて落ちた後、その先にナニカが飾られていた
まるで聖櫃に眠る聖女の様に、誰かが眠っていた
心がドクンと波打った後、視界は弾けた
無残にも自分が引き裂かれて行くのを感じていく
血が飛び散る
何度も何度も部屋の中に執拗に、乱暴に、凄惨に
それは・・
痛かった
辛かった
苦しかった
何度も何度もダレカに無造作にバラされた
死の感覚なんてないはずなのに、意識だけがソコで揺らめいていた
意識が途絶えかけた闇の中、最後に自分の首が、聖櫃の傍らに落ちた
光も闇も落ちぬ意識の先で、聖櫃(せいひつ)の中の人形が笑った気がした
「オカエリナサイ」
何も聞こえなくなった自分の頭部を異形のダレカに掴まれ、
「イタダキマス」 狂った声で顔を引きちぎられて絶命した・・
missing dolls 手児奈 @tekonyas-tekona
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