第6話 隠されていた狂気

そして今は自宅で、頭の中が絶賛混乱中だ

だが、狂気じみた恐怖はこれから続くのだった


「落ち着いたか?それにしても、なんであんな女に捕まってんだよ、たくっ世話の焼ける弟だ」


「暫くは俺が間に入って、あいつらがろくなことしねぇように監視してやる」


「おまえはとりあえず風呂に入って落ち着いてこい、話はそっからだ」


そういって、俺はもう何も考えたくなかったのでうながされるまま浴室に向かう

そして、着替えようとしてたその時、ズボンのポケットから何かが落ちた


ーコトンー

それは、チョコだった。確かあの時、リリから兄貴宛のを貰ったんだ

まだ確認してなかったっけ

そうして溜め息をついて、リリを思う

なんで泣いてたんだろ・・

とりあえず、俺はチョコの中身を見た

可愛らしく中も細かに装飾されていた。

せっかくだし、食べておこうとその時は思ってしまったんだ

俺は6つの小さいチョコを片っ端から食べていく

なんと意外にも甘く、芳醇な味わいが口の中に広がった

苺かな?凄く美味しかったはずなのに

なんかそれでもちょっと生臭い感じがしたのは気のせいかな

そうしてる内に、チョコの箱を落としてしまった


すると、落ち方が悪かったのか、箱はバラバラになってしまう

よくみると、その中から、白く薄い手紙が出てきた

そこには・・


俺は何を意味しているのか最初はわからなかった

「なんだよこれ」


白い紙には、

絶対に優をあなたに渡さない

血なのかチョコレートソースなのか赤々とした字でそれは書いてあった

そして更に、離れた所に、写真が一枚落ちてきていた


それは、修司が俺の下着を被っていたり、なめ回している写真だ

俺は驚愕した


「な・・だって、じゃぁ、リリは」


そうしてる内に背後から


「あ~ぁ、バラされちゃった。俺の秘密、リリちゃんもやってくれるねぇ」


背後から急に首を絞めるかの様に腕を伸ばしてきたのは、修司だった

俺は、急なショックから、身体がビクビク震えだし、蒼ざめる


「立花はえげつねぇなぁ・・これだから女って奴は信用できねぇ。杏奈も人の大事な弟を

かっさらうだなんて。そうはさせっかよ」


「な、なな、なにが」


「お~よしよし。怖くないからな。兄ちゃんは何もしねぇよ。あぁ、その写真はどうせ

合成・・ってなってくれたらおまえはいいだろうけど、事実だよ」


「それが、俺がオマエに対する本当の気持ちだ。おまえ鈍すぎなんだよ色々と」



「なんで、、リリは」


「あ~あいつ?小さい時は可愛げあって俺を好きだったんだけど、女の勘かなぁ?

どういう訳か、俺が弟が好きな変態だって気付いたらしい」


「まっ、俺も自分に戸惑ったが、今のご時世は自由な恋愛なんだし。何より俺は純粋だ

おまえを汚す薄汚い雌豚から守ってやるって兄弟愛だ。誰にも邪魔させれねぇ尊い愛だろ?」



「い、異常だ!だ、大体兄弟愛を逸脱してるし俺の自由は!」



「わっかんねぇやつだなー。まぁ世話焼かせるから好きなんだけどな?」


「俺らは兄弟なんだし、別にいいじゃねーか」



「ふ、ふざけんな。俺には彼女も出来たんだ」



「あ?させねーよ。自宅だって知らねーだろ杏奈は」

そうして、兄貴は服をはだけさせようとする・・しかもえらい腕力で


その時だ


ーぴーんぽーん


インターホンが鳴る


「宅配か?ま、家族もいねえし、無視だ無視」

兄貴はいとも気にしないで、本性を曝け出し襲ってくる


「暴れんなよ。悪い様にはしねぇから」

その時だ


ーピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンー

けたたましい音が響き、さしもに兄貴はうるさすぎて油断した



ーガンッー



俺は足で兄貴の股間を蹴り上げ、出口に向かう

今では打ち鳴らされた高音のチャイムが救いの鐘に聞こえた

が、次の瞬間



ーガンッ!ガンガンガンガン!ー

音は狂気に変わる

ついで、ガチャガチャとノブを引っかき回す音




「ねーぇ。優君いないのぉ?杏奈だよぉ。愛しい彼女さんですよーぅ」



その声を聞いた時、ぎょっと足を止める



「どうしたのーぅ?いないのかなぁ?さっきお風呂場から声がきこえたよーぅ」

な・・

そんな訳あるだろうか?わざわざ風呂場の音を聞きに行ってから

悠然と玄関に来るだろうか?しかも話し声まで何故聞こえる?


俺は恐ろしくなって、ドアスコープを覗くことにした

・・やっぱり杏奈だ

だが、手にはおどろおどろしいチョコと、どぎつい凶器を隠し持っていた


駄目だ・・前門のヤンデレ、後門の狼にも程がある


迷っている内に、後ろから又腕がしがみつく

それは言うまでも無く修司の腕



「黙れよ・・杏奈に手荒な真似されたくねぇだろ?」


そういって暫く無言のまま、チャイムだけが鳴り響く

すると、音が急に止んだ


「行ったか?」


兄貴は小さく呟き、俺を羽交い締めにしたまま

摺り足でドアスコープに近づく

その瞬間


ーバァンー


扉が勢いよく開け放たれる・・はずだった

が、ドアのチェーンロックが邪魔をしたおかげで、兄貴は鼻を強く打っただけだった

だが、鼻中に衝撃を喰らったせいで、思わず声を出してしまう


「うがっ!」



「あっ♪いたぁ・・。って修司さんかぁ・・アナタには用はないんですよーぅ

弟の優君いませんかぁ?」

あっけらかんに杏奈は呟く


修司は上手く俺を隠しながら杏奈に話す


「お、弟は親と一緒に出かけてるわ。つーかなんで自宅がわかった」



「えー簡単ですよぅ、私、立花ちゃんの友達なんだから、ずっと前から下調べしてますもん」

「でも、今は優君に興味あるんです。優君出してくれません?」



「ざけんな。弟は出かけてるっつったろ、ストーカーは警察呼ぶぞ」



「呼んでくれて構いませんよ?私、緊急時だから仕方なくこうしてますっていうだけですし

それに・・」


「まさか、学園一の色男のお兄さんが、変態で弟を手込めにしようとしたから

彼女が助けに入ったって言うだけですもの」



「な・・なにいってやがるストーカーが!」



「それなら修司さんは変態野郎でいいんですかぁ?」



「俺は何もしてねぇし、勘違いもいいとこだ」



「勘違い?・・なら弟をずっと狙ってた変態じゃないって事でいいんですよねぇ?」



「そうに決まってるだろ!気色悪い女だな」



「だからか・・男に走ったの・・そっくりそのまま返してあげますね」

そういった瞬間にチェーンロックは鋭利な何かで切られた


その間に、杏奈は玄関に押し入り、隠し持ってたスタンガンで

あっけなく修司に押しつけ、修司は悶絶したまま倒れ込んだ


「あーぁ。いいお兄ちゃんがだらしなぁい・・油断したかな?」


「うふふ。助けに来たよ優君。私のチョコ、まだ渡してなかったよね?遅くになっちゃって

ごめんね」


そういって、まるで当たり所が悪かったのか、兄貴は意識を失っていた


「前に男の人に乱暴されかけた経験があってね、その時に撃退法って、護身用に色々

習ったんだぁ。後、護身用具や工具改造とか」


「まさかこうして使う日が来るなんてね、・・でも、しょうがないよね?」



「はい、今日が私達の恋人記念日だよ?ハッピーバレンタイン優君♡」

俺はあっけにとられながらもパニクって、彼女を突き飛ばして逃げてしまった

「え・・・?なんで優君!・・ねぇ?どこ行くの?」

その言葉に振り返らないように走り出したはずだったのに


ーガチャリー


へ?


何かの金属音が響いた後、俺は派手に廊下に倒れ込む

イッッッッタァ

ついで、俺は何故倒れたのか、足を見る


「駄目じゃない優君♡さっきからおいたばっかりして、どうして逃げたの?

私、可愛い可愛い彼女じゃない?」


「それに、私からのチョコもまだ食べさせてなかったから、手作りもってきたんだよ?」

そういってお構いなしに紙袋からチョコを出す


そして俺は足の痛みを痛がる前に杏奈が取り出すチョコを

口に投入させられる


「はい♡食べて食べて。杏奈の特製チョコレート。えへへー何が中に入ってるか

恥ずかしいけど、わかってくれるかなぁ?」


そういっていきなり口の中に押し込まれたチョコは、最初ふんわり甘酸っぱい香りが

したかと思うと、一瞬だけ鼻や口の中につく生臭さと、嫌な感触に俺は吐き出した


「あっ、なんで吐き出しちゃうのー?そんなことしたら、おまじないの効果が薄れちゃうじゃない」

げほっげほっとむせながら、杏奈に聞く


「これ・・髪の毛じゃないか!こんなチョコ食わすバカがどこにいるんだよ!」


「あはは、バカにもなるよーバレンタインだよ?一年に一度の特別な魔法をかけたかった

んだもの。それに・・」


「私の事好きって、目をキラキラさせていってくれるワンちゃんに、ご褒美あげなきゃって

思ったんだよ、だって」


「私に近づいてくる男なんて、暴力やスケベしかない男ばかり・・でも、アナタは違った

下心はもちろんあるけど、優しくて、従順そうで、私を庇ってくれて・・」


「な、なに、、いってんの?マジ意味わかんねぇ。どうしちゃったんだよ」


「別にどうもしないよ?あぁそっか、まだ色々気付かないんだ?私が最初から狙ってたのも

修司じゃなくて、アナタだったんだよ」


「意味分からねぇ。そういえば、杏奈とリリは知り合いだったのにリリは知らないって

言ってたぞ。色々どうなってんだ」



「あーあれはねぇ、いきなり私と鉢合わせしちゃったから、咄嗟に知らないふりしたんでしょ?」


「女は怖いんだよぉ?そもそもリリが仕組んだ事なんだから」



「え?」



「順を追って話そっか?」



「内気でいじめられっ子の私に、リリが助けてくれて仲良くなった。そしてクラブに連れてってくれたり、内気な私が陽キャになれるように色々仲良しになった。そこまでは良かった」



「そしてその時に私はお兄さんの修司さんに初めて一目惚れして、告白したの。でも」


「修司さんはそれが気に入らなかったからか、私を避けるようになった」




「その時、優君は知らなかったろうけど、まだこんな派手じゃない地味子の私と、出会ってるんだよ」



「い、いつだよ!確かに兄貴はクラブに通ってたけど、俺、・・あっ」



「思い出した?あの時は嫌々連れて来られてたんだよね?可愛かったなぁ。

地味子の私にも優しく礼儀正しくて、ちょっと見つめただけで照れまくって・・」



「私、その時、二度目の恋をしたんだよ。兄弟を好きになるなんてバカだなって当時は

思っちゃったけどね・・」



「でも、それを快く思わない娘が居たの」



「それって、・・まさかリリか」



「そう・・でも、そのきっかけを作ったのは、そこに伸びてるお兄さんだけどね」



「兄貴が?」



「そうよ。さっきも見たでしょ?お兄さんは、あなたに恋をしてる。そして、私とリリもね」



「・・・っ」



「鈍感なのは罪なんだよ優君?優君、優しいだけが取り柄っていうけど、自分のこと、

全然客観視できてないんだからさ」



「なっ、、んな事言っても、今だってこんな事に巻き込まれるし、生まれてこの方魔法使いの

モテない童貞だぞ!?しかもハゲ茶瓶のパパ似だぞ!」



「お父さんそうなの?でも、優君が禿げきる位に、私はあなたを愛してあげるよ?」



「いやいや何も解決しないし、そもそも禿げたくないわ!」



「ふふ・・でもね、昔の家族写真見せて貰った時あるけど(盗撮)お父さんかなりイケメンで

下手したらお兄さんよりかっこよかったよ?」



「多分、綺麗なのではお兄さんは母親似で、優君はダンディなパパ似。まぁ、ちょっと

雰囲気的に声かけづらかっただけじゃない?」



「まぁそれよりも、話を戻すとね、お兄さんは、私を振った。で、私はストーカーに

なったとか言い出して、あからさまにアナタをクラブに連れてこなくなったりしたの」



「それで、いきなり、大事な話があるって、リリと修司から言われて、クラブに行ったの

私はリリもいるから、安心して、何の用かと足を運んだの・・そしたら」




「待ってたのは、知らない男達と、修司」



「私はそこで乱暴され、修司はこれに懲りたら自分や弟に色目を使うなって脅してきたわ」



「後でリリが私を励ましに来た時にわかったのは、きっとお兄さんは弟を愛してる事」



「そして、そのリリも裏で加担して、私を助けるフリしてマウントとりたかっただけって気付いた」




「だから、バレンタインって、「告白」の日でしょ?だから修司には、

弟に対する秘密と犯罪をバラされる「恐怖」を、リリには、初恋の幼なじみを今度は私に奪われる

恐怖を」



「そして、ようやく結ばれるはずの優君には、心から愛を込めた「チョコ」を渡そうって

決めたの」



「これで、話はお終いよ?修司ももぅお終い、だって、弟に手を出したいとかそれはもぅ家族愛

じゃないもん。それに、私にした犯罪も、これからはずっと脅す罰に出来る」



「リリはそんな女じゃない!」



「ふふ、カワイソウ。優君は騙されてるんだよあの女に。貴女の前では天使を演じてるだけ」



「信じて?私を怖いって思ってるんだろうけど、本当に好きなの!他の二人から貴方を守ってあげたいの?ねぇ・・だから好きって言って?」



「・・・わからない・・でも、こんな事普通じゃないよ!」



「・・・どうしても無理なの・・貴方のお兄さんは私に傷だって負わせたのに・・」



「それは裁かれなきゃならないし、すまないとは思うよ・・ただ俺にしわ寄せられても困る」

そう言った瞬間だった



「そう、、やっぱり男なんてそんな奴しかいないんだ。女の友情すらない」



「私はおかしくない・・おかしくさせたのは、おまえら兄弟だ!」

そういってどこからか鉈を取り出して俺の足に叩き付けた!



「うわぁぁぁぁ・・・ぐぐっ・・ぐ。こんな事しても、なんにもならないよ」



「もぅいい。幸せなんて私には来ないんだから・・あなたに拒否されたんだからさ」




「貴方は嘘つきのリリを選んだ・・なら」




「ハッピーバレンタインだけが、バレンタインでなきゃいけない訳ないよね?



「だってさ」



「世の中にはモテた人と、モテない人だっている。ならアンハッピーなもあるんだからさ」



「だから」


そういって、泣きそうな杏奈は、泣き笑いで刃を振り落とそうとする



「アンハッピーバレンタイン♡優君・・あなたを殺して私も死んであげる」



「・・・・・くっ」振り落とされた凶器に、俺は思わず目を閉じた

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