第351話 番外編5 フィナ&フィナ


――バルドゥルがいる――



 この言葉にケントは激しい否定を繰り出す!


「ありえない! 奴は私たちが完全に滅ぼした! 共鳴因子を鎖にして繋ぎ、全次元から存在を消したはずだぞ!」


「あなたの世界ではそこまでのことを……? 残念だけど、この世界ではアステがバルドゥルを蘇らせて、彼らは二人でを求め合う存在になったの」

「そんなことに……」


「もっとも、現在ではその二人も対立関係だけどね」

「ん、それは?」


「アグリス内にはアステ派とバルドゥル派がいるのよ。旗色はアステ派の方がまだまだ優勢だけど、アステが無視できないくらいの勢力ができつつある」

「知を求め合う存在から、知を求め争う存在にか。何とも面倒な」



 大きくため息を漏らすケント。

 僅かに生まれる会話の空白。


 この空白を今まで沈黙を保っていたミーニャが埋めた。

「共鳴因子の鎖が意味を為さなかった……このことで、ミーニャの力が封じられている理由がわかったニャ」

「ミーニャ?」

「この世界は空間の干渉波によって雁字搦がんじがらめになっているニャ。そのため、ミーニャの力がまともに使えにゃいわけにゃが、バルドゥルとやらが共鳴因子の鎖から身を守るために空間を封鎖した影響のようニャね」




 彼女の声に同意する言葉が、ケントの懐から聞こえてくる。


「ミーニャさんだっけ? 彼女の指摘通りよ」

「フィナ?」


 ケントは懐から青いナルフを取り出す。

 すると、ナルフが淡い蒼の光を放ち、ナルフを中心に置いてフィナの立体映像ホログラムが浮かんだ。


「初めまして、皆さん。私はフィナ=ス=テイロー。あんたがこっちの世界の私ね」

「ええ……驚いた。私のナルフではあなたのナルフの存在を検知できなかった」

「ふふん、こっちは遺跡を爆破しちゃったみたいだけど、私の世界では隅々まで調べてるからね。その差がでたのかも」



 胸を張り、身体を仰け反らせるフィナ。

 これにこちらのフィナが眉を顰める。


「自分とは言え、ムカつく」

「ふふ、爆破なんてもったいないことしたね」

「たしかに。だけど、爆破して知識を得られなかった反面、バルドゥルが地球の技術をいかんなく振るえなくなった。いま彼は、地球の知識を何とかスカルペルの技術に落とし込めている状態。そのおかげで、何とか戦えている」


「なるほどねぇ」

「それにしても、そっちは全部を得たんでしょ? 隅々まで調べた割にはバルドゥルを消滅させることに失敗したんだ」

「うっさいな。天才でもミスはつきものよ」


「それじゃ、そのミス――」


「わかってる。同じミスがないかでしょ。今回の事象と他の可能性を含めて、センサーで次元を走査スキャンしてるところ……うん、バルドゥルが残ってる世界はここだけみたい」

「大丈夫なの?」

「疑り深い私ねぇ~。あの、ミーニャさん?」


「なんニャ?」

「あなたは私たちよりも超すごい存在なんでしょ? この遺跡を乗っ取ろうとするくらいの知識があって、空間に干渉する魔力に関しては群を抜いてる。だから、色々わかるんじゃない?」

「まぁニャ」


「じゃ、他にバルドゥルいる?」

「あんまりお前らのやることに干渉するのはニャ~」

「あれ、今回の問題の発端は誰だっけ?」


「にゃっ? にゃかにゃか、悪ニャね」

「ふふ~ん、どういたしまして」

「にゃ~、仕方にゃいな。ちょっと調べるニャ……いにゃいニャ」


「だって、未来の私さん」



 フィナはにんまりとした笑みを見せて軽い口調を見せる。

 それにこちらのフィナはため息を漏らし、ケントが謝罪を口にする。

「はぁ、若いころの私ってこんな感じだったっけ?」

「申し訳ない。彼女のこういうお調子者っぷりはなかなか変わらなくてな」


「誰がお調子者だ! で、ケント。バルドゥルはどうすんの?」

「決まっている。あのような危険な存在、放っておくわけにはいかない」



 彼はこちらのフィナへ顔を向ける。

「他世界の政治事情に介入することには気が引けるが、バルドゥルに関しては別だ。バルドゥル退治に手を貸そう」

「ふふ、ありがとう。ちょうど、総力戦の間際。新たな戦力は歓迎する」


「あくまでもバルドゥル退治だけだ。戦争に参加するつもりはないぞ」

「バルドゥルはアグリスにとって戦力のかなめの一つ。そいつがいなくなるだけでも、こちらとしてはありがたい。それで、あいつを消し去る方法は?」


「それは私の世界のフィナに尋ねる。フィナ、兵器の稼働は可能か? こちらへ持ってくることは?」



 この問いかけに、立体映像ホログラムのフィナは何やら忙しなく両目を動かしながら答えを返す。


「そうだねぇ、兵器関係は完全に封印してるから、それを解除すると時間が掛かるしなぁ。う~ん、大雑把な兵器であれば何とかなりそうかも。でもそれだと、破壊範囲が広大だし……そうだ、私がバルドゥルの気を引くから、ケントが止めを刺して」

「私が?」


「あんたの銃。銃弾は私製だけど、バルドゥルに十分通用するはずよ」

「そう言えば、この銃の弾丸はナノマシン特攻。言わば、古代人に対する特攻の弾丸だったな。わかった、何とかしよう。だが、どうやって気を引く?」

「それは今から考える。とりあえず、一度通信を切って、どうするかに集中するね。あ、モニタリングはしてるから安心して」

「わかった。では、頼んだ」



 立体映像ホログラムのフィナが姿を消す。

 ケントは空中に浮かんでいるナルフを懐へ仕舞う。

 一連のやり取りに対して、こちらのフィナが不安げに尋ねた。

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