第350話 番外編4 最悪の敵

――情報交換


 まず、事故と発端となったミーニャの侵入とその理由を話す。

 これにマフィンとキャビットたちは涙し、彼女の前でひれ伏す。


「く~、魔女王様は我々を見放していにゃかったのニャ! にゃんたる慶福けいふく! 清福せいふく! 果報かほう! 我らはついに故郷への道を開いたのニャね!!」


 彼らの様子を目にして、ケントはミーニャに尋ねる。

「ここは並行世界。彼らは君の世界のキャビット族とは違うのだろう? いいのか?」

「問題にゃいニャ。ミーニャの世界はミルフィーユみたいにゃもんニャ」

「はい?」



 説明の意味不明さに間抜けな声を出したケント。

 代わりにこの簡素な説明で理解を示したフィナが二人の会話に言葉を差し入れる。

「なるほど。あなたの世界は多次元が層となっているのね」

「そういうことニャ」

「時間に余裕があれば、あなたの世界を詳しく知りたいところだけど……」

「それにゃら、あとで後ろの男に聞くといいニャ」

 


 ミーニャは尻尾でその男を差す。

 そこにいたのはジュベル。

 ケントは彼の名を呼ぶ。


「ジュベルさん? こちらではカエルの姿ではないんですね?」

「あ~、そっちでは僕はカエルのままなんだ。そっちの僕は元気してる?」

「おそらく、カエルのまま亡くなったかと」

「え、なにそれ?」

「とにかく、詳しい事情はこれからまとめて」



 ミーニャの話に続き、ケントの世界の話を簡素に伝える。

 百合の滅びのナノマシンで、ケント以外のナノマシンを持つ存在は永遠の眠りについたこと。

 その後、彼が王になったこと。


 次に、この世界の話を聞く。

 ケントがアステ=ゼ=アーガメイト共にアグリスを侵略し、さらにはビュール大陸を支配し、アステはケントを王という神輿に担ぎ上げて、勢力を拡大している。

 フィナたちは彼らの圧政に耐えかねて蜂起。

 敵対し、総攻撃の間際。


 

 この情報にケントは驚きに唾を飛ばす。

「この世界では父が生きているのか!? フィナ!?」

「いえ、死んでいた。だけど、アステは遺跡に人格をコピーして残していたから」

「それはこちらでもそうだったが……その後、父は自ら自分を消去したはず」

「え? あなたは止めなかったの?」

「止めたかった。だが、すでに父は死を迎えている。生者は死者をおくらなければならないだろう」



 彼の言葉に、フィナは目を大きく見開いた。

「驚いた……私たちの知るケントとは違い、あなたは強いようね」

「ん?」

「私たちの世界では、ケントはアステにすがってしまったの。アステを消せずにアステに肉体を与え、父として残ることを望んだ」


「馬鹿な! なぜ、そのようなことを私が望んだんだ?」


「彼は自分という存在に自信が持てなかったのよ。人工生命体ホムンクルス――人工的に作られた存在で孤独だと思い込み、父にすがった……」


「そんなことが……私は並行世界や過去を旅して言葉を貰い、勇気を得て、仲間たちに自ら人工生命体ホムンクルスであることを伝えた。それを仲間たちが受け止めて、私は真の意味で友を得た。ここでは違うのか?」



「自ら? なるほど、そこに大きな違いがあるのね」

「違い?」


「私たちの世界では、私があなたのことを人工生命体ホムンクルスだと見抜き、それでみんなはあなたの正体を知ったのよ」

「見抜いた? どのようにして?」

「ギウの洞窟で……」


「ギウの……そうか、君はギウの洞窟を覗いたのか。あそこには百合さんが作り上げたシステムが眠っている。そこで全てを知ったのか」

「ええ、全てを」


「そこから知識を得て、レイやアイリたちを救うための方策を見出した。ジュベルさんまでも……ということは、魔族――地球人も?」


「ええ、今は私たちと共に行動している」

「そうか」

「あなたの世界では、私はギウの洞窟を覗かなかったの?」

「それについてはフィナから話を聞いた覚えがある。覗こうとしたが、やめたそうだ」

「なるほど、そこか……」



 フィナはため息のような言葉を吐いた。

 その吐いた言葉の意味をケントも悟る。


 ギウの洞窟を覗いたことにより、全てを救える可能性を手にした。

 だが、それにより、ケントの心の成長を阻害してしまった。

 結果、ケントは心の弱いまま父と出会い、すがってしまう。

 


――ケントは語る。



「あの時点の父のコピーには、まだ、冷たき父の心が残っていたはず。その後、冷たき父の心が大きく育ち、私を利用すると決めた。そして私もまた、あの時点ですでにアグリスを破り、多くから支持を得ている。立ち回り次第で王へ押し上げることも可能」



 彼は顎に手を置いて、さらに言葉を続ける。


「ヴァンナスに居ては王家の目があり、自由な研究ができない。だが、ビュール大陸ならば別。私が王となることでパトロンとなり、研究に適した環境を産み出すことにした……ということは、父はアグリスで研究を?」


「ええ。当初、彼は遺跡で研究を行っていた。それは非人道的なことを含めてね。それを食い止めようとして、私たちは遺跡を破壊した」

「そういえば、遺跡があった場所に大きな穴があったな。なるほど、それで穴が」


「だけど、アステの命は奪えなかった。彼はアグリスで人の心を省みず、ひたすら研究に没頭し、数多の貴重素材を求める。そのために武力を用いてくる。それに対抗すべく私たちは協力して立ち向かっているというわけ」



「そうか……君たちの世界は多くを救えたが、その代償がこの事態ということか」

「あなたの世界は多くの犠牲を払ったけど、戦争もなく平和な世界。というわけね」




――ケントの世界・古代人の施設・中央制御室



 今までの話を青のナルフを通して聞きながら、フィナはケントを元の世界に戻す方法を探していた。

「なるほどねぇ。ギウの洞窟を覗く覗かないでここまで世界が変わるなんて……覗かなくて正解だったのかな? ま、正解だろうが間違いだろうが、今を一生懸命に生きるしかないんだけど。それよりも、この複雑な干渉波を何とかしないと。まったく、なんでこの世界はこんなに干渉波が?」


 フィナはさらに深く、この世界を覗く。

 そこで、存在してはならない存在を瞳に映した。

「え!? そんな、この世界には――」



――別世界


 ケントはフィナへ尋ねる。

「世界が違うとはいえ、正直残念な気分だ。君たちの敵が、私と父とはな」

「いえ、敵は二人だけじゃない。もう一人いる」

「もう一人? 誰だ?」

「彼らの隣には――」

 


 ここで、二つの世界のフィナの声が重なり合う。


「「バルドゥルがいる!!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る