第349話 番外編3 良き世界?
ケントたちはニャントワンキルの魔女王ミーニャに従うマフィンに連れられ、彼らの代表と会うことになった。
これに小柄な戦士は不満顔を見せている。
錬金術で造られた転送石を使い、ビュール大陸の内部にある森へ。
そこに彼らの本拠地があるそうだ。
森の中を歩む道中、マフィンたちから端的に説明を聞く。
ここはケントのいた時代よりも二十年ほど未来。
この世界でもケントはアグリスの王となっているが、多くの種族民族と敵対していると。
マフィンもその一人。
今はこれだけを聞いて、詳しい事情は彼らの代表から聞くとなった。
無言で歩く中、ケントの懐に収まっていた青い
これはフィナが通信用にケントに渡しているナルフ。
彼は他の誰にも気づかれぬように、ナルフを握り締め、囁くように言葉を漏らす。
「フィナか?」
「小声? なるほど、普通に話せない状況なのね」
「そういうことだ。細かな事情は話せないが、現在別の世界にいる」
「みたいね。それはこっちのセンサーでもわかってる。何とかあんたを取り戻す方法を探ってるけど、何かが干渉して簡単にはいかない」
「ミーニャの話では、この世界は空間の干渉波で
「ミーニャ?」
「侵入者だ」
「そう、仲良くやってるみたいね。とりあえず、敵じゃないと思っていい?」
「ああ」
ケントは周囲へ視線を振る。
小柄な戦士が訝し気に彼を見ている。
「悪いが、そろそろ通信切る」
「いえ、回線は開いたままにしてて。そっちの状況が知りたいから」
「わかった」
彼は体を掻くふりをして、ナルフを懐へ戻した。
――本拠地へ到着
といっても、そこには何もなく、森の中の開けた場所。
ケントの隣にいるミーニャは小さく語る。
「空間の位相をずらして建物を隠しているようニャ」
「マフィンは君を魔女王として認めたが、他の者には警戒されているということか」
正面へ顔向ける。
正面の空間が歪み、ケントはとても懐かしい兄妹の姿を銀眼に映した。
「レイ? アイリ?」
彼らはケントの知っている姿よりも年を取り、また服装も勇者時代とは違い、簡素な戦士服を纏っているだけ。
さらに彼らの周りにはギウたち……。
「これは……驚いた。この世界では君たちが生き残っているのか? 良い世界だ……」
この言葉に、レイとアイリは冷たい視線を見せて、ケントの心を切り裂く。
「マフィンからの通信で事情はある程度知っている。別の世界から来たケントだと」
「生き残っている? ってことは、あんたの世界では私たちを殺したの?」
言葉の一文字一文字に殺気が宿る。
ケントは眉を顰め、言葉を返す。
「どうやら、君たちとまで敵対しているようだな。はぁ~、世界は違えど、久しぶりに会えた弟と妹にそのような目を見せられるとは……」
彼はギウへ視線を振る。
「ギウたちの中に私の知るギウは?」
この問いに、レイたちの後方から声が届く。
「いない。二年前の戦いでギウも百合も亡くなったから」
濃いサファイア色の長い髪を風に揺らし、同じくサファイヤのように輝く瞳に僅かばかりの紫を溶け込ませ、目尻に細かな皺を見せる女性。
ケントの知る世界の彼女とは違い、赤ではなく青いコートを纏い、肩から腰に掛けては魔力の宿る試験型属性爆弾を装備し、腰元には黄金の魔法石輝く鞭。
ケントは彼女の名を呼ぶ。
「なるほど、代表は君か。フィナ」
彼女はケントの声に答えを返さず、小柄な戦士へ視線を振る。
彼はフィナヘ報告を上げる。
「怪しげな空間変動を調べに行ったら、こいつらがいた。別の世界から来たとかほざいてやがる。んで、そこの猫娘はキャビットのご先祖、ニャントワンキルの魔女王だそうだ」
報告を受けて、フィナは半透明のメビウスの形をしたナルフを浮かべ、それを見つめる。
「たしかにケントの次元係数が私たちの世界と違う。そちらのお嬢ちゃんは……イラと同じで正体がわからない」
彼女のこの一言にマフィンが声を上げる。
「ミーニャ様は間違いなくニャントワンキルの魔女王ニャ! 敵ではにゃいニャ!」
「はぁ、それがどんな存在なのかいまいちわかんないけど、マフィンがそういうなら信じましょ」
この言葉に反対する声が彼女の後ろから聞こえてきた。
「おいおい、決戦前だってのにいいのかよ、フィナの嬢ちゃんよ?」
「うむ、万が一ということもある。徹底的に調べておくべきでは?」
「よければ、僕が調べましょうか? それこそ徹底的に!」
声の主たちは、親父・マスティフ・カイン。
フィナは彼らにこう言葉を返す。
「その必要はない。危険じゃないことはわかるから。それよりも親父。いい加減、嬢ちゃん呼ばわりは止めなさいって言ってるでしょ。もう、私は四十を越えてるんだから」
「へへ、すまねぇな。なかなか、癖が抜けなくてよ」
そう言って、彼は白髪混じりの頭を掻く。
その隣に立つカインはフィナヘ強い言葉をぶつける。
「相手がどの世界の誰であろうとケントには違いない。僕は調べるべきだと思う」
「その必要はないと言ってるでしょ」
「チッ!」
彼は舌打ちをして、ケントを睨む。
これにケントは大きくため息をつく。
「どうやら私は、こちらのカインから随分と嫌われているようだ。フィナ、私の世界とどれほど
「わかった。そうしましょ」
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