第十二章 唸れ商魂!

第124話 私もついていく!

 幽霊騒動は悩みの種だが、現状ではさっぱりわからない。

 今のところちょっと肝を冷やす程度で害もないため放置するほかあるまい。

 というわけで、今はキャビットとの会談に集中することにした。



――薬の用意ができ、いよいよキャビットとの交流が始まる。


 そのために、あらかじめ親父に手紙を届けさせておいた。

 マッキンドーの森を治める『キャビットのおさ・マフィン=ラガー』は当初、会談を渋っていたそうだが、薬のことを伝えると、長い時間をおいて部下を通じ会談を行うと返答してきたそうだ。

 


 病気のことを隠したい思い、姿を見られたくない思い。そして、薬を手に入れたい思いが時間に現れ、悩みの末に天秤は後者の思いに傾いたようだ。

 彼らからの返信の手紙には、キャビットの使いを呼び出すための鈴が同封してあった。

 


 私はキャビットを訪ねるメンバーを選ぶ。 

 まず、第一として、少人数であることが望まれる。

 相手はあまり姿を見られたくないと思っている。そこに大人数で押し掛けるわけにはいかない。

 

 できるだけ、少人数の方が彼らも受け入れやすいだろう。

 では、その少人数の内訳となるが……治療のため、フィナとカインは外せない。

 二人に加え、マッキンドーの森にはあの桃色の魔族が潜んでいる可能性があるため、護衛を強化したい。

 だが、ギウはキャビットと非常に相性が悪いそうだ。

 理由は……ギウの姿とキャビットの姿から察してほしい。


 となると、ギウの他に戦力になりそうなのは親父。

 フィナの見立てではかなりの実力者らしい。

 そこで手紙を届けたよしみもあるだろうから、親父についてきてもらうように頼むと……。



「いや~、天国のような宴は地獄ですのでご勘弁を」

 と言われ、断られた。

 何を言っているのかさっぱりだが、それは行けばわかるだろう。


  

 護衛がいないのは寂しいが……まぁ、護衛は治療兼戦士の役目を果たせそうなフィナがいるから問題はないか。それに、森にはキャビットの戦士たちもいる。


 そういうことで、今回のメンバーは私とカインとフィナの三人……のはずだったのだが、一人の少女がどうしてもついていくと言って、頑として言うことを聞かなかった。


 その少女とは……。



「危険はほとんどないとはいえ、万が一ということもある。だから、連れて行くわけには行かない。納得してくれ、キサ」


 そう、キサが森に向かう直前になってついていくと言い出したのだ。

 キサはゴリンたちの手によって修復された第一の防壁の門の前で待ち伏せをしていた。

 そのキサは強い言葉で私におねだりをする。



「そこを何とかしてほしいのっ、領主のお兄さん! 同じ商売人としてキャビットの商魂を学びたいの!」

「その向上心には頭が下がる思いだが、店は放っておいてもいいのか?」

「大丈夫、エクアお姉ちゃんとグーフィスさんに頼んでおいたから」

「休業はしないんだな……だけどな、キサ。これは遊びじゃないんだ」


「わかってるよ。私も遊びじゃないもん。アルリナにいたら、キャビットは滅多に会えない商売の神様みたいな存在。だから、会いたいのっ」

「この交渉が上手くいけば、今後はアルリナと交流を深めることになる。そのときに……」

「でも、マフィン=ラガー様に会える機会は絶対ないもん!」

「なるほど、彼と直接会いたいわけか。だが、個人的な理由で……」

「でもでもでも」



 私とキサの問答が続く。

 その問答にうんざりした様子でフィナが声を上げた。


「もう、いいからさ。一緒に連れて行けばいいじゃん。時間もないことだしさ」

「やったっ。フィナお姉ちゃん、いいこと言う!」

「フィナ! 余計なことを」


「これ以上、揉めても時間を取るだけでしょ。それにこの子、無理やり置いて行っても、こっそりあとをつけてくるタイプだよ。それよりかは、私たちの監視下に置いてた方がいいって」


 フィナの意見にカインも賛同してくる。

「そうかもしれませんね。それに僕たちが通る道はキャビットの管轄下。危険も少ないですし、あとはキサちゃんが粗相をしないように僕たちが気をつけておけばいいでしょう」


「カインまで。僅かとは言え、君たちはキサのような幼子を危険な目に遭わせてもいいのか?」


「ケント、あんた、過保護すぎ。キサは自分で店を持ち、切り盛りしてるのよ。普通の子どもとして扱うのはどうよ? この私に野菜を売りつけるような子だしね」

「親父さんから話を聞きましたが、キサちゃんは相当な切れ者だそうじゃないですか。その才を伸ばしてあげたいとは思いませんか?」



 カインはキサに優しく微笑み、フィナは指先でキサのつむじをぐりぐりと押さえる。

 その指をキサはぺちぺち叩きながら、カインにお礼を言っている。

 いつ打ち解けたのか、私は仲良さげな三人へため息交じりの言葉を掛ける。


「君たちは……私を過保護と呼ぶが、よっぽど君たちの方が甘いと思うぞ。はぁ、まぁ、危険は少ないし、学べる機会を奪うのも……キサ、次の機会にマフィン殿を紹介するじゃダメか?」

「いま会いたい!」

「……そうか、わかった。同行を許可しよう」

「やった~」


「だが、マフィン殿と会話するという希望は確約できないぞ。まずは私たちとの会談が優先。それはわかってるな?」

「うんっ」

「それと、会話が許可されても、私の前で行うこと。いいか?」

「うんっ!」


「う~ん、返事が立派であるほど不安を誘うな……しかし、あまり問答を行う時間もない。約束の時間に遅れるからな」

「そうだよ、早く行こう、領主のお兄さん。えへへ、やっぱりギリギリまで言い出さなくてよかった!」

「な……に?」



 満面の笑みを見せる、才に恵まれたしたたかな少女。

 私はこの子の末が恐ろしい……。

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