〇一


 西暦二〇一五年。京都の街は交通量も多く、賑やかな大都会になっていた。夜の帳、ヘッドライトの河が流れている。その中を、ものすごいスピードで走っている一台のバイク(自動二輪車)があった。乗用車を次から次へと追い越し、タワーの輝く坂まで走って行く。

 やがて目的地に着くと、ヘルメットを脱ぎ、タワーの輝きを受けて飛び散る汗は光っていた。

 そのバイクを運転していたのは、川合未来である。彼はかなりのバイク好きで、一日一度は必ず運転する。特に夢中になっていると、朝から晩まで走り続けているという有様である。洗車や手入れには決して手を抜かずに神経質なまでに行っていた。そんな未来のことだから、乗り方も丁寧(?)である。

 彼は私立大和学園に通う高校生で、また北川瑞希が担当するクラスに席を置いている。倶楽部は何処にも入っていない。

 高校二年になってから独り暮らしを始めた未来は、古びた清川屋台荘に住みついていた。日々の生活は親の仕送りとアルバイトをして成り立てていた。現在は昔と違い、アルバイトは校則でも認められていた。但し、社会勉強という条件つきである。できるアルバイトは、学校が認めたものと限られていた。まあ、その頃の彼が言うには、あまり充実していた生活を送っていなかったそうだ。

 ―退屈といえば退屈な日々である。ラッシュ・ライフ(充実した日々)には、まだまだ遠いようだった。

 それが、謎の女性・佐藤妙子の訪問により、未来の生活のリズムに変化を与えた。

 彼女とは、未来が自動二輪車の運転免許を取りに、自動車教習所へ通っていた時からの知り合いだった。

 まあ、割とよく喋ったし、彼女とは仲も良かった。

 佐藤妙子。見たところまだ十八か十九歳である。容姿はあまりパッとしないのだが、別に若作りしているわけでもなく、ごく自然で、十九歳にしてみれば、まだ少女らしさを残している。美人というよりも可愛いというタイプである。

 そんな彼女が、わずかな荷物だけを持って、未来を訪ねて来たのである。

 相手が男性なら冷たく玄関払いをするところだけど、女性には甘くコロッと態度を変える。自分の気に入っている人物にしか、相手にしない性分である。未来は俗にいう「わがままな性分」であった。

「泊めて、宿なしなの」

「構わないさ。上がれよ」

「ありがとう。今日の川合君は優しいのね」

「よせよ」

 その日を境に、彼女がこんなことを繰り返すことは目に見えている。理由も聞かずに、いとも簡単に受け入れてしまったことは、未来にとってはとても珍しいことである。

 それが原因で、この京都の街に雪が降らなければいいが…。

「どういう意味なんだよ!」と、未来はそう怒鳴るであろう。



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