……タイムカプセルのような物語が、完結をするために。(瑞希が紡ぐ群像劇は、やがて『二〇一五年八月二十四日の告白』を結ぶ。【プロット版】)

大創 淳

〇〇


 何が悪いのか、今もわからない。

 誰のせいなのか、今もわからない。

 そう叫び続けてきたが、所詮は過去のことである。

 過去は未来を築く土台にすぎないから、もうあの日に帰りたいとは思わない。

 机の上には、涙で綴られた手紙だけが残されている。

 その手紙を綴ったのは亡き教え子の星野旧一(もとかず)である。彼との思い出を断つために、北川初子は、この風の強さを利用して、両手でこの手紙を粉々に破る。…最後の輝きを残して風が流れる中を舞って行った。

「卒業までもう少しですね」と、あの日の旧一の声が、初子の思い出の中で蘇った。

 あの日、十二月の寒い夕方の帰り道、旧一と一緒だった。

「そうね。卒業しても、困ったことがあったら相談してね」

「困ったこと…あります」

「なあに?」

「僕、先生の事が大好きです。できるなら卒業したくない。まだ一緒にいたいです」

「旧号(旧一のニックネーム)、卒業しなきゃ、あなたの人生、進めないわよ」

「…そうですね。変なこと言って、ごめんなさい」

「いいのよ。卒業しても、あたしでよければ、会いたくなったら会いに来ていいのよ」

「はい。先生、ありがとう!」

 でも、その約束は、果たされることはなかった。旧一は思い出になってしまった。

 今日、初子は長年の教師生活を卒業した。新しい人生の出発に立った。

 同じ頃、彼女の子供も成長して教職に就いた。その子の名は北川瑞希である。

 瑞希もまた京都の私立大和高等学園で出発をしたばかりだった。

「わたしもお母さんみたいな教師になる」と言っていた瑞希の言葉を思い出した。

「でも瑞希、お母さんみたいな教師になったら大変よ」と、あたしは笑いながら言った。

「わたし、憧れていたもの。ハッピー先生(かつての初子のニックネーム)に」

 と、言っていた瑞希も、あたしに似て、やんちゃな子でした。まるでハッピー先生が現代に蘇ったようでした。

 ねえ、旧号。あれから答えを求めてきたけど、やっとその答えがわかるようになった気がします。

 平成時代が始まってから二十七年の歳月が流れた今日、一つの終わりがあれば、また一つの始まりがありました。



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