第2話 ネオンの向こうの素顔 1


 その二つの猟奇事件が結びついたのは、犯人を名乗る人物がネット上に放った不気味なメッセージによってだった。


 最初の事件は、M町にある空きテナントで女性看護師が殺害された通り魔事件だった。


 死因はナイフのようなもので心臓を刺されたことによる失血性のショック死とされたが、問題はその後だった。石のような物で頭部をぐちゃぐちゃに叩き潰されていたのだ。


 顔面を潰すというのはよく聞く話だが、息絶えてから頭部を損壊するという例はあまり聞かない。捜査本部は周囲の関係者を徹底的に洗ったが、怨恨の線は見つからず結局、有力な容疑者が浮かばないまま捜査本部は解散となった。


 事件が再び世間の耳目を引くようになったのはそれから半年もあとのことだった。きっかけはSNSで、事件現場の近くで『顔のない女』が目撃されたという怪談が発端だった。真っ白な顔の右か左に目が一つ、髪が長く体つきが華奢なため女とされたが、実際のところはわからない、というものだった。


 これだけならよくある都市伝説で片付けられるところだが、騒ぎに火がついたのは、当の『顔なし女』本人を名乗る人物からの、第二の犯行をほのめかす書き込みによってだった。


 こうした売名行為はSNSでは日常茶飯事で、当初は誰もが暇を持て余した一般人のお遊びだろうと揶揄めいたコメントを送っていた。


 だが、そのうち別の人物が『顔なし女』が警察に犯行をほのめかす手紙を送りつけたらしいと書きこむに至って、騒ぎは次の犯行がいつ行われるか、標的は誰か、と言った予想合戦を巻き起こす事態にまで発展していったのだ。


 俺はこの騒動の経過を、『監獄』のパソコンで知った。内容を把握するや否や、これは俺にうってつけのヤマだと思った。


 俺の直感で第二の犯行を防ぎ、『顔なし女』の正体を暴くのだ――そう思うといてもたってもいられず、休業中だった偽探偵稼業を再開して午後から夜にかけての時間を次の標的を特定する作業に充てたのだった。


 ――だが。


 結論から言うと、俺が候補を探している間に、第二の犯行は実行に移されてしまったのだった。被害に遭ったOLの女は例によって心臓を一突きされ、頭部損壊の辱めを受けた。


 ただし、最初の犯行と異なっている点が一つだけあった。最初の被害者が頭部を殴打によってめちゃめちゃにされたのに対し、第二の事件では被害者は頭皮を剥がされ、頭蓋骨もろとも脳の一部をえぐられるという猟奇的な処置を施されていたのだ。


 この行為が何を意味するか、当の『顔なし女』もコメントすることはなかった。


 俺は自分の無力さに打ちのめされたが、同時にまだ素性の片りんすら定かでない『顔なし女』の正体をなんとかして自分の手で明らかにしたいという欲望が沸々と湧いてきたのだった。


 ――第三の犯行も必ずあるはずだ。俺が標的を、被害者になる前に特定してやる。


「木羽先生、それって犯行を期待してるってこと?」


 ふいにほのかが口を開き、俺はどきっとした。どうやら頭の中の呟きを、無意識に口に出していたらしい。


「いや、必ずしもそう言うわけじゃあ……」


「ふふん、要するにこういう事でしょ。殺人は起こって欲しくないけど、犯行予告はして欲しい。そして未遂で終わらせる為にも、犯人には計画を実行に移して欲しい……違う?」


 俺は肩を竦めて降参の意を示した。まったく、頭が切れすぎる助手というのも困り物だ。


                   

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