平和の国
マルセイが買い物から戻り、久々にまともな物を食べた。果実とか、干し肉とかだったけど、味のない保存食よりかはましだった。
「……では、もう良いか?」
さっきからフォクスは不機嫌そうだ。食事にも手をつけていないし、明らかに苛立っているのが分かる。
「……フォクスはあの国が嫌いなんだ。聞いていただろう?」
マルセイがそう耳打ちする。確かに魔法も使うことない程平和なら魔道師は退屈だろうけど……。
「……あー。実はな……」
マルセイはフォクスの方をちらりと見て、移動に集中しているのを見ると、こう言った。
「フォクスは捕まったんだ。自分の故郷、ロヘニアでね」
「えっ……!」
思わずすっとんきょうな声が出て、慌てて後ろに佇むフォクスに目をやった。幸い気付いてないようだ。マルセイは話を続ける。
「ある日、マルセイは一つの便利な魔法を発明したんだ。それは物を浮かし、自由に移動できる。便利な魔法だろう?」
そんな魔法があればきっと力仕事なんかこの世になくなっていただろうに。そんな便利な魔法存在したんだ…。
「しかしその魔法の試運転をしていた時だった。動かしていた物が、はしゃいでいた子供に当たったんだ。頭に直撃。そのせいで子供はしばらく気を失い、後遺症も残った。そんなの親が見過ごすわけなく……。しっかりフォクスは警察にとっちめられてな。幸い当時は危険人物とかの制度は無かったから、数年牢に入れられるだけで済んだけどな」
それであんな性格に……。フォクスの体からは相変わらず禍々しいオーラが出ている。
「今でもロヘニアは魔道師を嫌ってるし、魔道師もロヘニアには行かない。そんな雰囲気が出来上がってるんだ」
そしてかなりの時間の後、ようやくロヘニアに着いたらしい。フォクスがため息をつき、肩をおろしている様子からそれが想像できる。
「じゃあな。マルセイ。さっさと行ってくれ。また必要な時があれば望むといい。向かった先に必ず居る」
フォクスがそう言うと、目の前に扉が現れる。マルセイはその扉に向かって歩き始める。扉を開けた先には眩しい光が部屋の中を照らした。私もその後を追う。
「……それでは、さようなら」
フォクスの声が後ろから聞こえた。フォクスはいつものようにニタリと笑みを浮かべている。そしてロヘニアの地へ一歩踏み出した途端、彼の姿は消え、何もない、殺風景な部屋が広がっていった。
「カレロナ、どうしたんだい?忘れ物?」
「いや、何でも……」
振り向くと、眩しすぎる程の光が目に入った。そして目が光に慣れた頃。目の前には、いかにも平和そうな素晴らしい光景が広がっていた。
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