修羅場
「どういう事なの!?」
空虚な部屋の静寂を突き破るような声は、きっと外まで聞こえただろう。カレロナは持っていた包みを落とし、俺たちの方に向かった。心配して俺を訪ねてみたら、見知らぬ女と抱きついている。そりゃそういう反応になるだろう。
「ちょっと、この女誰ー?」
若干イライラしたように女は言った。
「ああ…。カレロナは幼なじみでな…」
「そんなのいいから、早く離れなさいよ」
カレロナは説明している俺と女を引き離した。無理矢理引き離された女は舌打ちをし、カレロナの方を向いて、口を開いた。
「さっきから何?ムカつくんだけど」
始まった。始まってしまった。一瞬空気が凍りつく。容易く予想でき、そして最も悪しき事態が起きた。
「あんたこそ何よ!さっきからあなたディスペアの何なの!?」
凍りついた空気は次第にヒートアップしていく。
「そんなの、どうだって良いじゃない」
女の冷たい目線に対抗し、カレロナもじっと女の方を見据え、力強く言った。
「良くない…。良くないの!」
女はその気迫に押されながらも、何か良からぬ事を思い付いたようだった。
「そんなに教えて欲しいなら、教えてあげるわよ」
カレロナは固唾を飲み込む。女は卑しい目付きで俺を見る、まずい。やめろ。
「恋人じゃない。ねえ」
ほら、何て最悪なんだ。
「恋…人…」
青ざめた顔で、涙を浮かべた。止めてくれ。そんな顔を見せないでくれ。
「…カレロナ。…俺が、俺が悪かったから」
泣かないでくれ。そんな事を言う前に。彼女は手で口を覆い。
「信じられないっ!」
と言って出ていってしまった。耐え難い喪失感。全てが終いとなったあの空虚さが、背筋を伝った。身体中の冷たい感触と相違して、体の中は熱くなっていった。
終わりだ…。そう思った。
「あーあ」
苛立つ程空元気な声が、後ろから聞こえた。
「邪魔が入っちゃった。ねえ?」
黙れ。
「あんな面倒臭い女に好かれてるなんて困ったものね」
何を勘違いしてるんだ。この女は。たった一夜の関係と、カレロナの長い付き合いが釣り合うと思っているのか?
「ねえ、英雄様」
俺は…言葉をぐっとこらえ、女に言った。
「帰ってくれ」
「え、でも…」
「帰るんだ」
「…」
押しに負け、女は出ていった。
頭が痛い。どうしようもない。やるせない。もう、何もかもが終わりなのか?ふと、カレロナが落とした包みを取る。中には彼女が作った物であろうクッキーが入っていた。
…今からでも、間に合って欲しい。今度こそ伝えるんだ。俺は彼女の家へ走った。
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