消えない炎
日は地面をオレンジ色に染め、そろそろ暗い夜が訪れる事を暗に伝えた。密集した家々の間を通り抜け、右に左に曲がって彼女の家に向かう。誤解を解かせなくてはならない。
俺が悪いのだから。
彼女の家を見つけた。そしてその近くの塀で、カレロナは座っていた。
「…」
向こうをむいているから、どんな顔をしているかも分からない。話しかける事が、ここまで苦痛なことはなかった。その場はまるで別次元のようだ。子供たちが笑って友達に別れを告げている。そんな朗らかな優しい空気とは遠くかけ離れている。冷たい、冷酷な空気だった。勇気を振り絞れ!…自己暗示を続けて、そしてようやく一歩、二歩と歩みを近づける。そして穏便に声をかける。
「なあ…カレロナ」
彼女はピクリとも顔を動かさない。それでも話を続ける。
「すまなかった。全てお前の言う通りだったんだ。もう、関係は絶った。宴に行くことも、うつつを抜かすことも、もうしないと誓う。だから、許してくれないか…」
しようものなら土下座だって出来る勢いだろう。相手は何も言わなかった。結局どんな言葉を連ね上げようと、言い訳は言い訳なのだ。自分が惨めだった。悲しい。沈黙だけが恐ろしい。
そしてしばらくの間を空けて、彼女はまだ顔は見せず、ようやく口を動かした。
「本当に信じれるの…?」
震えた声だった。
「本当にあなたの事を信じていいの?」
とても彼女とは思えない、泣きそうな、微かな声だった。いや、もう散々泣いてしまった後なのかもしれない。罪の意識は消えないままだった。
「ああ、信じてくれ。今度こそは、絶対だ」
そして山の方から、一陣の風が吹いた。その風は家々の通りを吹き抜け、ヒューっと言う音と共に彼女の赤髪を乱させた。そしてまたの静寂の後、彼女は俺に、「帰って」と言う。
「こんな顔…あなたには見せたくないの…」
…ここまで俺は彼女を傷付けてしまったのか。「ごめん」、何て言うのも野暮だった。ここは大人しく帰るが吉だろう。
赤い日の色はもう見えなかった。薄暗い、辺りがぼやけて見える程の光しかない。俺はゆっくりと歩いて家路につく。玄関の小包を机の上に置き、二階の寝室へ向かう。開けっぱなしの窓から顔を突き出すと、幾つか星が見えた。彼女はきっと今頃、星を眺めているのだろう。
火は収まったのだろうか?とてもじゃないが俺はそう思えない。何故なら今でも想像できるのだ。あの女が爪を噛み、今か今かとその時を待ちわびているのが。
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