あの日の関係
朝起きて歪む視界は、恐らく前の酒によるものだろう。ふらつき、頭を抑えて、一先ず近くの椅子に座る。最悪な目覚めだ。
外に出る気にもならない。何を食べるにも手が動かない。口が拒否する。こんな事、今まで無かった筈だ。そんなにあの酒は強い酒だったのか?何て酒だったか…。昨日の記憶もあやふやだ。しかし、昨日言われた事はずっと頭に残っている。
「『終わりを告げる宴』、かあ…」
意味もなくただそう呟いてみせる。俺は、着実と終わりを迎えているのか?もう、宴は行かない方が良いのだろうか…。俺はただ、自分の行動を省みて、その過ちを探す事しか頭になかった。つまりはぼーっとしているんだ。ふと立ち上がり、窓を開け、道交う人々を見た。馬を引き連れた商人。気の棒を振って遊ぶ子供たち。気の良さそうなおばさんが俺に挨拶をした。
「こんにちはディスペア様。今日は宴に出席なさらないので?」
「ああ、そんな予定は入っていないよ。今日は休む事にしたんだ」
おばさんは、ほうきを片手に胸を撫で下ろした。
「ああ良かった。最近ほぼ毎日酒飲みの生活で心配してたんですよ」
「それはすまないね」
実際、今も頭痛で倒れそうだが、そんな一面は世界を救った英雄にはいらないのだ。おばさんと会話を終わらせ、窓から顔を出し、風を浴びた。山から降りてくる風は涼しく、そして乾燥していた。
昨日の焦げ後が目に入って、改めて思い出した。そういえばあいつはあれで俺を叱ったのか。確かに近くには店や、木造の家がある。そこか、そこが俺を終らせるのか。ようやく理解した。後で謝っておこう。そして感謝を述べよう。それが今の俺に出来る事だ。
日はそろそろ沈みそうだった。今からでも十分に間に合う。二階の寝室から下に降り、俺は家の戸を開けた。いや、開けようとした。しかし戸は勝手に開かれ、そこには昨日の女が俺を真っ直ぐ見据えていたのだ。
「こんにちは、英雄様」
昨日とさして変わらないような際どい格好で女は俺にしがみつき、こう訴えた。
「ねえディスペア様~。今日は宴にいらっしゃらないの?」
声を聞き、顔を見て、次々と昨日の事を思い出していく。あの接吻の事も、何もかも。
「ま、待ってくれ。今日は疲れてるんだ。宴には行かない」
「えー。でもー」
駄々をこねてずっとしがみついてくる。そろそろ面倒臭くなってくる。
「はいはい、もう終わり、今日は休ませてくれ、ほら早く帰って」
「ちょっと…昨日の英雄様は何だったの?」
無理矢理押して帰らそうとするが中々強情だ。何故そこまで執着する…。
その次の瞬間。また戸の開く音がした。二人共々玄関の方を向く…ああ、最悪だ。
「カレロナ…」
彼女の顔からどんどん生気が無くなり、失望の目で俺を見る。
「ちょっと…これ、一体…」
終わりだ。今、その声は告げられた。きっと、今から始まるのだろう。とんでもない『修羅場』が。
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