告げる宴
そこからは毎日宴の日々だった。民たちと一緒に飲むときもあれば、王族の人たちと飲むこともあった。とにかく酒を毎日飲んで、楽しくわいわい騒ぐ。それだけで良かった。
「ディスペア様は世界をお救いになった!」
「伝説の英雄として語り継がれるだろう!」
宴に参加したら必ずそう言われる。宴も悪くないもんだな。ずっと褒めてくれる人が居るとどれだけ良いことか…。そうだよな、俺、世界救ったんだよな…。
「…もっと言ってくれ。こっちは世界救ったんだぞー!」
豪勢な部屋、美しい女性。祝う民たち。その真ん中で仕切れるのが俺ってか…。気味良いぜ、珍しく酒も上手いし。
「ええ、何度でも言いましょう。ディスペア様は伝説の英雄です。もっと誇りを持っても良いと、私は思いますわ」
耳が心地良い…。両手に花状態だー。…あー視界がぐわんぐわんする。そういや何杯呑んだ?ああ、まあいいや。今日はもう止めにすっか…
「おい。もうやめだ。誰か俺を俺ん家まで連れてってくれよ。もし手伝ってくれたら、魔法見せてやるぞー」
わっと場が盛り上がる。誰にするかごねてるらしい。それを見るも良し、また酒を呑むも良し、だ。
「ああーん。ディスペア様と一緒に歩ける何て幸せー」
べろんべろんに酔っ払った女は、俺の肩にすがる。
「ははっ。おいおい、逆だろ逆。肩をかすのは俺だっつの」
「えー、でもー」
やれやれ…。あ、そうだ。魔法見せてやろ。どこが良いかな…。ま、目の前のこの道でいっか。
「なあ…なあって。今から魔法見せてやるよ。火の魔法な。よーく見てろよ」
城から城下町を通り、外へと続く大きな一本道。その中心辺りに今俺は居るからあ…。火の気になるような物は…まあ…どーでもいっか。
ぞくぞくっとした感覚が全身を伝う。…久し振りだなあ。手をゆっくりと前に突き出すと。そのぞくぞくが掌まで到達する。その瞬間に手から赤い球体が噴出され、地に触れた瞬間。美しくその球体は火の円となった。
「あ、きれい…。ねえ、もっと見せてえ」
「しゃあねえなあ…後一回だけな」
それをもう一度行い、また道に焦げ後を残してやった。女は喜び、俺の頬に口付けをした。そしてその後は、おとなしく家へと連れていってくれた。
「じゃあ、また飲みましょうねえ」
ふらふらとした足取りで家路へとつく彼女を見守っていると、酔いの覚めるような鋭い口調で、こんな声が耳に入った。
「ちょっと、ディスペア。…あんた今何してた?」
声の主はカレロナだった。俺を壁へ追い詰め問いかける。
「あんな所で魔法なんて打って…。もし火が移ったらどうしてたの?」
「げ、見てたかよ。…まあ良いだろ?被害は無いんだしさ…」
「良くない!…。ねえ、ディスペア…。」
そう言ったきり、彼女は俯いて、黙ってしまった。
「おーい、どうしたよカレロナさん。寝てるのか?」
そして今度はこちらを睨み付け、強い口調で俺に言った。
「その内痛い目見るからね。終わりを告げる宴を、楽しめるなら楽しんでみなさい」
そう言い彼女は踵を返して帰っていった。
…何が終わりを告げる宴だ。…ああ、全く。また呑まなきゃなんねえよ…なあ。
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