エピローグ その三 マルコシアス



 天界は平穏だ。

 かつて一度、邪神との戦争になるというウワサが立ったが、けっきょく争いはいつのまにか下火になった。

 邪神たちが妙におとなしく、それぞれの住処にこもってしまったからというのが、おもな要因だ。


 マルコシアスは今日も神の楽園をパトロールという名目で、海岸線を散歩している。


 入江に近づくと歌声が聞こえた。また、あの二柱が来ているのだろう。アスモデウスとミカエル。彼らの逢引きの合図だ。


 マルコシアスはしばらく、その歌声を聴いていた。

 この歌を耳にすると、なぜだか胸がしめつけられる。何かとても大切なものをなくしてしまったような?


 ずいぶん遠い昔に、神の密命を受けて、アスモデウスと旅立った……ような気がするのは勘違いだろうか?

 あのとき、世界は終わったと感じたが、もしかしたら、ただの夢だったのかもしれない。


 これでよかったのだ。何もかも。

 すべてはよい方向に転じた。神はこの結果に満足し、実験の成功を友人とともに祝っていると伝え聞く。なんの実験だったのかも、今となっては誰も覚えていないと言う話だが。


 そろそろ、私もつがいの相手が欲しいなと、マルコシアスは考えた。

 近ごろの天使は一つの卵から、必ずつがいで生まれてくるというから、羨ましいかぎりだ。古い実験の天使だけが、孤独に生まれ、相手を探さなければならない。


 でも、まあ、時間はいくらでもある。きっと、私にもひとめで心臓の共鳴する相手がいるだろう。そのときまで、気ままに暮らしていればいい。たまには人間界へ遊びに行くのもおもしろそうだ。


 マルコシアスはそう考え、下界をながめる。

 下界には、まだまだ冒険がありそうだ。

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