エピローグ その二 フレデリック



 プラハ旧市街地。

 新薔薇十字団の本部に近いカフェで朝のコーヒーを楽しんでいると、相棒の星流のスマートフォンに連絡が入った。


「ああ、セオ。次の仕事だ」


 フレデリックは野暮な仕事のオファーに嘆息しつつ、コーヒーの残りを飲みほす。


「次はどこなんだ?」

「西アフリカだよ。ブードゥー教の信者たちのあいだで不穏なウワサがあるんだそうだ。強い悪魔の仕業かもしれない」

「しょうがないな。朝の一服も楽しませてもらえないとは」

「これが終わったら早めのバカンスをもらおう」

「いいね。二人っきりで、南の島」


 フレデリックは丸いテーブルごしに、星流の頭を片手でひきよせた。かるく音の出るキス。

 星流は東洋人のせいか、人前でのこうした行為を好まない。が、今は怒っている時間もない。飛行機の時間がすでに本部で決められているのだ。


「……まったく、出会ったころはあんなにシャイな少年だったくせに」と、文句を言いつつ席を立つので、

「そりゃ、あれから十五年も経つんだ。立場も逆転するさ。君は小さくて、とても可愛いお姫さまだ」

 フレデリックも言い返して、コーヒー代をテーブルに置いた。


 星流がかるくにらんでいる。

「あんまり生意気な口きいてると、バディを変更してもらうからな」


 それは困る。

 いつだったか、星流がほかの女性と結婚し、あげくの果てに死んでしまうという夢を見た。それはとても悲しい夢。目覚めたときには涙が止まらなかった。


(もう二度と、どこにも行かないでくれ)


 できれば、死ぬときも一分一秒たがわず、同時がいい。同じ場所で、二人で死にたい。


「星流。君の相棒は私だけだ。そうだろ?」

「おれのことをお姫さまなんて言わなけりゃな。さあ、来い。相棒。飛行機に乗りおくれるぞ」


 必要な荷物はいつでも出立できるように、小さなキャリーケースにまとめて、つねに宿舎に準備してある。


 今回の仕事も危険かもしれないが、星流と二人でなら、きっと楽しい。

 晴れた今日の空のように、爽やかなブルーに染まる。

 となりに、その人がいるだけで。

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