② コーラスコープティー、ふたたび
普段はお姉ちゃんが立っている『魔法のミュージカル屋さん』のカウンター。
そこで、あたしは今、ティーポットにお湯を注いでいた。
普段はお客さんがいる向かい側にはレインが座って、じっとそれを見てる。
そう。
あたしたちはコーラスコープティーに訊いてみることにしたんだ。
ティーポットの中にそっと、呼びかける。
「茶葉さん。あたし、もう、守られるだけの妹はいや。お姉ちゃんの力になりたいの。教えてください、昔、なにがあったのか。どうしてお姉ちゃんは、ミュージカル歌手をやめちゃったの?」
茶葉さんは答えるのを渋ってるみたいに、なかなかメロディーを奏でてくれない。
お願い……答えて。
心と一緒に注ぐつもりで、ティーポットをカップに傾ける。
レインがじっと目を細めた。
見つめていると、茶葉さんが答えてくれるとでもいうように。
永遠にも思われる時間が経って。
カップがかすかな音楽を奏ではじめた。
寄せては返す波のような、かぎりなく優しいピアノの音……。
しばらくすると、凍り付くほどきれいな歌声が聴こえてきた。
あたしは思わず息をのんだ。
「お姉ちゃんの声だ……!」
これは、あたしがミュージカルの道に進むと決めた、あの日に聴いたのと同じ曲。
『スィンクオブミー』。
オペラ座の怪人の中でヒロインが歌う恋の歌だ。
というこは。
「お姉ちゃんが、恋をしてる……?」
いきなりな答えにただ、ポットの中でダンスするようにまわる茶葉さんを見つめる。
「チュチュ、見ろ!」
レインの声ではっとして前を見ると、そこには、ティーポットから真っ白い湯気が立ち上がっていた。
その中に、だれかが見える。
流れるような金髪は、いつものようにまとめてはいない。まっすぐに、腰まで伸ばしている。
お姉ちゃんだ。
舞台に立っていたころの。
その背景に、たくさんの大道具や機械が置かれた薄暗い空間が現れる。
ここは、舞台裏みたいだ。おそらく、ハー・マジェスティ劇場の。
あたしはレインと目を見合わせ、湯気の中の映像に見入った。
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