⑤ 明日はきっと
「チュチュちゃん、おはよう。はい。今日の朝ご飯」
お姉ちゃんがカウンターに出してくれたのは、おなじみのトマトビーンズやスクランブルエッグ、かりかりのベーコンがのった朝食プレート。一つだけいつもと違うところがあった。ティーカップに星の形のお砂糖が乗ってる。
「これ、新しい踊り子糖?」
「ううん、ふつうのお砂糖。昨日チュチュちゃんが眠った後、落とし物の絵を取りにきたメリーがお礼にって置いていったの」
そう。メリーさんの落し物は額縁に入った小さな絵――ポートレートだった。管理所でさいしょに見たあれだ。
世話をしている二人の子供、ジェインとマイケルが描かれたものなんだ。
二人のことを想ってるなんて、すなおじゃないメリーさんは言いそうにない。
なにもかもパーフェクトな彼女にもかわいい一面があったんだ。
あれからレインと公園の管理所でその絵を受け取って、お姉ちゃんにあずけたのだった。
思い出して気持ちがなごみかける。あたしはほっぺをたたいて、びしっと心をひきしめる。
今日はいよいよ、『雨に唄えば』の本番初日。
「たくさん練習をがんばってきたチュチュちゃんには魔法なんかなくても、ひとさじのお砂糖でリラックスすればそれでじゅうぶん」
ウインクするお姉ちゃんに、あたしは片目をつむってお返しした。
「ありがとう。お姉ちゃん。行ってくるね」
カウンターの上のリュックをしょって、あたしは歩き出した。
立ち上がる直前、飲み干した紅茶の甘い味のように。
きっと今日は、楽しい日になる――。
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