第9話 初心

手紙というのは実はとても難しいものだとタカトは思う。


彼女に近づく途端に眠ってしまうならば、最初から手紙を書けばいいんじゃないかとは早々に思い付いた案だった。

それなのに、いざ書こうとし始めると、これが全く上手くいかない。


まずは出だしからつまづいた。


『相羽サユキさん、好きです。付き合ってください』


最初の一文の違和感が凄い。

そもそもタカトは彼女が好きなのか、そこからもうすでにわからない。

美少女だし優しい性格で、そういう意味では好きだ。

むしろ彼女を嫌う人なんていないだろう。


だけど、付き合いたいかと問われると、それより一緒に寝てほしいと思う。寝るためには付き合わなければならない。つまり恋人になるということだ。

一連の思考の流れからも好きだという感情よりも睡眠欲ありきの関係なのだ。


それは告白する者としてどうなのだろう、と考え始めると手紙を書く手が止まる。


結果的に、直接言葉で伝えれば熱意は伝わるんじゃないかと手紙は諦めて特攻隊の精神で告白をかましたわけだ。

勝敗でカウントするならば、勝率ゼロという無惨な話に終わったが。


そしてまた初心に返る。

手紙だ。


書き出しはじめて、違和感に頭を抱えるという、悪循環。


仕方なく赤裸々に綴ることにした。

これまでの経緯から、付き合いたい旨まで余すところなく書き綴った。

不眠症で悩んでいること。サユキから音楽が聴こえること。聴くと眠くなって即座に寝てしまうこと。そのため夜も一緒に寝てほしいこと。そのためにお付き合いをしてほしいこと。合間に、きちんと誤解のないように体目当てでなく、サユキのことを好きだということもきちんと述べた。

お嬢様だけど、気さくなところ。笑顔が可愛いこと。声も素敵でいつまでも聴いていたいこと。しっかりしているようで時々、ずれたことをやらかすところも可愛いとベタ褒めしてみた。

最終的には、自分は彼女のことがきっちり好きなのだと実感して悶えに悶えた。


夜中のテンションは恐ろしい。朝読み返せば絶対に恥ずか死ねるような内容でもスラスラかけてイケると思うのだから。


そして大作を彼女に手渡した。


保健医の山居に頼んで(脅して)、サユキを呼び出してもらい即座に手紙を渡す。

読んでもらえれば事情を全てわかってもらえるはずだ。


起きた時に彼女がいれば、熱意が伝わったということだろうし、もしいなければ振られたということだろう。


そうしてふっと目を覚まして、部屋を見回してタカトは絶句した。見慣れた保健室ではなかったからだ。


「これは…どういうことだ?」




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