第8話 手紙(サユキ視点)
彼からの謎の言葉を残したが割と満足して、日直の仕事は終了した。
だがまさか続きがあるとは予想もしなかった。
それから何度も彼から思わせ振りな告白めいた言葉を告げられる。
例えば朝の教室で会う時に。休み時間の廊下ですれ違う時に。放課後帰る間際に。
授業が始まる少し前の僅かな時間に。
すれ違い様に告げられた言葉は短く意味を成さない。
「スキ―――ぐうぐう…」
大抵は二文字、時には三文字発しただけで彼は寝てしまう。
結果的にサユキは告白かそうじゃないかの判断がつかない。
好き?
それともスキ焼き?
好き勝手?
透き通る?
隙がある?
好き好き?
スキューバダイビング、スキー、スキャット、鋤?
スキから始まる単語を並べて悶々とする毎日を送るはめになった。
タカトが必死になって伝えたいことはなんだろう。頭を悩ますけれど、もともとタカトに恋しているサユキの脳ミソは告白の一択しか弾き出さない。
告白なんだから付き合っちゃえば良いんじゃない、なんて軽くけしかけてくる。
妄想だ。
空想だし、幻想だ。
タカトがサユキに少しも興味がないことなんてわかってる。
だから、絶対にあり得ない。
なのに期待して浮かれている自分も確かにいるのだ。
告白かと思ってドキドキして。でも結局眠りに落ちたタカトを眺めて、尾山田にお姫様抱っこされるタカトを見送るのだ。
段々と虚しくなってきた。
そしてやはりタカトの思惑がわからない。
そんなとき、放課後になって帰ろうかと教室で準備をしていると保健医の山居が廊下を走ってきたうえ、教室に駆け込んできた。
「あ、いたいた、相羽さんっ」
「どうしたんですか、そんなに急がれて」
「え、あはは、なんでもないわ」
「え、なんでもなくないですよね?」
何か重大事件でも発生しないと、あんなふうに教師が廊下を走ることはないと思うが。
「いえ、貴女に帰られちゃうと本当に叱られるから怖くて慌てちゃって…」
「なんです?」
小声でボソボソ言い訳している山居に問い直せば彼女はあははと再度、誤魔化すように乾いた笑い声をあげた。
「ちょっとだけ、相羽さんに頼みがあって…聞いてほしいの」
「保健委員でもなんでもないので、私にわざわざ頼む必要ありませんよね?」
「全くもってそのとおりなんだけど! 簡単な仕事で人を助けると思って引き受けて欲しいの。あ、時間もそんなにかからないからっ」
それはますます自分でなくてもよいのではと思いつつ、小さな頼み事にしては随分と大袈裟な話ではある。
しかも必死に彼女に拝み倒されて仕方なく引き受けた。
#####
「失礼します」
軽くノックをして保健室に入れば、すぐさま扉を閉めてと命令が飛んだ。
「え、え、はいっ」
タカトだ。
なぜか保健室のベッドに正座している彼が鋭く命じてきたのだ。
なぜここに。そしてなぜそんなに鬼気迫る様子なのか。
思わず扉を閉めて、真横を向けば白い物体を顔面につき出された。
「読んで―――ぐうぐう…」
それが手紙だと認識する前に、タカトがベッドの上に崩れるように倒れてスヤスヤ寝ている。
「え、読んでいいの?」
彼が眠った拍子に床に落ちた手紙を拾えば、宛名には相羽サユキ様となっている。裏を返せば隼瀬タカトと記載されていた。
ついに直接告げることは諦めて、手紙で想いを伝えることにしたのだろうか。
サユキはドキドキする胸をおさえながら手紙を開いて読んだ。
そして数分後、震える声でつぶやくのだった。
「な、なんてこと……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます