第6話 頼み事

一度目の告白に失敗したタカトは然り気無さを装うことにした。

言葉も下手に長くすると眠ってしまうので、好きだと三文字に全てを込めた。


例えば朝の教室で会う時に。休み時間の廊下ですれ違う時に。放課後帰る間際に。

授業が始まる少し前の僅かな時間に。


だがこれがなかなか難しい。

なんせ唄がなぜか日に日に強烈な眠気を催させるのだ。我慢して眠らないようにしているのに、強力になる。

さっぱり意味がわからない。


結果的に「好き―――ぐぅ、スヤスヤ」という告白からのお休み3秒を繰り返した。


「すっかり、保健室の常連ね。華高の眠り姫さん」


保健室のベッドの上で十回目の告白の失敗から目を覚ませば、呆れた顔をした山居がタカトを見下ろしていた。


「やめてくださいよ、本当に困ってるんですから」


華川高校がタカトの通う学校の名前だ。略して華高である。そしてすっかりタカトは名物として噂されるようになった。華高の眠り姫だなんて呼ばれて喜ぶ男子高校生はいない。いたら特殊なお考えの持ち主だろう。絶対近づきたくない。


「だって尾山田先生もすっかり慣れちゃって毎回運んでくるじゃない。さながら隼瀬くんを守る騎士みたいに言われてるのよ」

「先生の恋人を取るつもりはありませんから、安心してください」

「え、なんで知ってるの?!」


いつの間にか数学の尾山田と保健医の山居が付き合っていた。

さながらタカトは恋のキューピッドだ。

せめて眠り姫でなく、そちらを噂してほしい。

毎回倒れるように眠り込むタカトを運ぶ尾山田と保健室にいる山居がくっつくのは自然の流れか。やはり二人のことは別にどうでもいい。


なりたいのはサユキの恋人の座だ。

尾山田がタカトの騎士になろうがなるまいが、知ったこっちゃない。


「山居先生、ちょっと頼みがあるんですよ」

「な、何かしら?」

「俺のおかげで尾山田と付き合えるようになったんですよね?」

「べ、別に隼瀬くんのおかげってわけじゃあ…」

「そんなツンはいらないんです。そんなのは尾山田の前でだけやってください」

「冷たい…だって最近、本当に貴方の話ばかりなのよ。細くて軽くてちゃんと食べてるか心配だとか、夜眠れないくらい悩みがあるなら聞いてあげたいとか。なんなのあれ、悪かったわね。私は悩みがないくらいぐっすり眠ってるし、ちょっと体重重くて! 胸があるんだから仕方ないとか諦めてくれてもよくない?!」


肩を掴んで必死の形相で言い募る山居に、タカトは胡乱な瞳を向ける。


「いや、もう、本当に、勝手にやってください。俺の関係ないところで、是非!」

「酷い…」

「酷いのはあんたらの頭の中だ。もう絶対有罪ですよ、責任とって俺のお願い聞いてください!」


タカトは力強く言い切った。

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