第5話 困難なミッション(告白)
相羽サユキは美少女だ。
けれど気さくで美人で金持ちなことを鼻にかけない。それこそ隣の席の平凡男子、もちろんタカトのことだが、にも平気で話しかけてくる。
そのため、わりと告白する者が多い。
たぶん、あの柔らかい感じで受け入れてもらえるだろうと錯覚してしまうからに違いない。
だが、もちろん返事は御免なさい、だ。
そしてその理由は時々、車で迎えに来ている明らかに社会人の男のせいだ。
スーツを着た若い男だ。ある時はスーツである時はカジュアルなパンツスタイル。眼鏡をかけていることもあれば帽子を被っていることもある。黒髪だったり茶髪だったりアクセサリーをつけている派手な男だったりと様々で。
とにかく格好がバラバラで、なんとなく別人ではないかと噂になった。
それから、相羽サユキは年上の社会人としか付き合わないのだという結論に至ったのだ。しかも相手を次々に変える、とのこと。
そのためついたあだ名が難攻不落のお嬢様、だ。
つまり、タカトには一つも勝算がない。
高校生なのでバイトをしてもたかが知れている。そもそも天下のアイバホールディングスのお嬢様を満足させられるようなデートプランやエスコートなんてものを提供できる自信がない。
けれど、快眠のためには彼女の傍にいる権利を得る必要がある。それも夜、当たり前のように眠るためには相当な関係にならなければならない。
もちろん同級生ではだめだし、友人でもだめだ。
女子高生と夜一緒にいられる関係なんて、それこそ恋人同士でしかありえない。
まあ一般の高校生が恋人になったからといって一晩一緒にいてくれるかどうかは疑問だが、ただの友人よりは可能性はあがるだろう。
誓って指一本触れない。
その自信はある。
なんせ彼女から聞こえてくる唄を聞けば一瞬で眠れるのだから。ただ一緒の部屋で眠ってくれるだけでいい。
そのためには彼女の彼氏という立場にならなければ、と考えた。
一晩、考えに考えた。
白み始めた空を睨んで、明け方の爽やかな鳥の鳴き声を聞きながら。
いかにして、夜、眠れるようになるのかを考え続けた。
その結果、難攻不落のお嬢様———相羽サユキ様に告白して彼氏になるという絶望的な、勝率ゼロの無謀な行動を起こさなければならないという結論に至ったのだった。
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そうして告白することを決意したその日の放課後、日直の仕事というタイムリーな奉仕活動を二人で行いながら、向かい合わせで席につく。
ちなみになぜサユキと日直の仕事をしているのかといえば、席が隣同士でペアを組むからだ。今日ほど担任のいい加減さに感謝したことはない。
たいていは出席順で日直が決まるからだ。
彼女が日誌を書いてくれて、仕事がひと段落着く前に、タカトは焦りながら口を開いた。
なぜなら眠気がそこまできていたからだ。
なんとか意識を保ちながら、意を決して口を開く。
「相羽サユキさん、俺と付きあ―――ぐう…スヤスヤ」
「え、ちょっ…突然寝るとか…告白するんじゃなかったの。期待させといて落とすとか、なんなの……ふざけてるのっ?!」
サユキが騒いでいても全く目を醒ますことなく、タカトは机に突っ伏したまま眠り続けた。
こうしてミッション(告白)を3秒以内にしなければ眠ってしまう、想像以上に困難な状況に直面したと知るのだった。
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