第4話 唄が聞こえる
「相羽…さん…こんなところで、どうしたの」
「私が数学の前に声をかけたら、隼瀬くんが倒れてしまったから心配になってこうして待っていたの。気分は大丈夫?」
「大丈夫…ではない、かな」
今まではすっきりさっぱりしていた筈だが、今はまた猛烈な眠気に襲われて頭がぐらぐらする。
「やっぱり。数学の尾山田先生が何度呼びかけてもぴくりともしないんだもの。先生もびっくりしたみたいで、すごい勢いで保健室に運んでいったの。お姫様抱っこで!」
三人目だ。
心臓が深く抉られた。
同級生の女子から言われるとますます刺さる。
タカトは慌てて話題を変えた。
「あのさ、さっきから唄が、聞こえない?」
「唄?」
「いや、聞こえないならいい…んだ」
やはり自分だけに聞こえるらしい。
しかも彼女からしか聞こえない。
一体どういうことか。
「あの、今日車を呼んであるから家まで送っていこうか」
「え?」
「今もなんだか調子が悪いようだから」
「ああ、いや、大丈夫だから」
サユキから離れて唄が聞こえなくなれば、眠気がなくなるに違いない。どういう原理かはわからないが、とにかくこの音楽が聞こえなければいいのだ。
また無様に彼女の前で眠るワケにもいかない。
「ごめん、今日、急ぐから。わざわざありがとう、ごめんね。さよなら」
タカトは一息に言葉を吐くと、靴を履き替えて走って昇降口を飛び出すのだった。
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『すごかったんだぜ、尾山田が大変だって言ってあっという間に床に倒れたお前をお姫様抱っこして廊下に飛び出していったんだから。女子どもなんかきゃーとか黄色い悲鳴をあげててさ』
「お前で四人目…」
家に帰って夕飯を食べ終えた後、自室でヤスノに電話すればツーコールで出たが、やはり話題はお姫様抱っこだった。
登校拒否になってやろうかな。
タカトは短く息を吐く。
『いや、でもマジで睡眠不足って恐ろしいな。俺、今日はさっさと寝ようと思って』
「眠れない俺にケンカ売ってんのか」
『いやいや、マジだって。ていうか、お前眠れるようになったんじゃないのかよ』
「いや、たぶん眠れないと思う」
タカトが眠れたのは、あの相羽サユキから聞こえてくる不思議な唄のせいだ。
現に、彼女から離れて唄が聞こえなくなったら全く眠たくなくなったのだから。
つまり彼女の傍であの唄を聞いていればすぐに眠れる。
昼だろうが、夜だろうが。
大事なことなので二度言う。
夜だろうが、だ。
「あのさ、相羽様って確か、男嫌いなんだっけ?」
『はあ、相羽様? お前から話を振ってくるなんて珍しいな。違うよ、男嫌いじゃなくて、同級生に興味がないんだよ。確か社会人じゃなきゃ付き合わないんじゃなかったか。要は金がなけりゃ満足できないんだろ』
高校生にとっては難攻不落のお嬢様、それが相羽サユキの通称だった。
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