第11話正義のヒーロー 3

「父さん、なんで?生きてるの?だってあの日·····」

「うん?あぁ、確かに死んだよ、けど、そこの嬢ちゃんに生き返らせてもらったんだ」

父さんらしきおじさんはミラを顎で指して、当然のことのように言った。


「どういうこと?ミラ」

「うんとね、この世界リマインドには冥界って言う場所があって、そこには死者の魂が集まるの、そして死神協会にお願いをすると色んな審査を通してからリマインド限定で冥界から出してもらえるの」


ミラは俺にも分かるように説明してくれた。要するに父さんはミラに連れられて、冥界から出てきたって訳か。


「でもなんで父さんを?」

「それは·····」

「それは今のお前が見てられないからだろ」

そう言って、俺達の会話に混ざってきたのは金髪碧眼の師匠だった。


「まるで周りのことが見えず、自分だけで解決しようとする、その心持ちが危うくて見てられなかったんだよミラは」

「そう、なのか?」

確かめるようにミラを見る。


ミラはとても気まずそうな顔をしていた。

「いやまぁ、そうとも言えるし、そうとも言えないとも限らないというか、なんとというか」

ミラはしどろもどろになり口をパクパクさせていた。


「なんで俺なんかのことを?」

「チッ!まだわかんねー」

「メンコさん、今から俺達二人きりにさせて貰えませんか?」

師匠が何かを言おうとしたのを止めた父さんはそう師匠に提案した。


「お願いします」

そして頭を下げた。


「分かりました、じゃああたしとミラは席を外します、行くぞミラ」

「う、うん」

ミラは師匠に手を引かれて部屋を出ていく。その時のミラの顔はとても不安そうだった。


「さて話をしようか、湊」

二人を見送った父さんは俺に向き直り、傍にあったベッドに座る。


父さんがポンポンとベッドを優しく叩き、隣に座るよう暗示してくる。

俺はその暗示に素直に従い、父さんの隣に座る。


「お前はまだあの日のことを引きずってるのか?」

先に口を開いたのは父さんだった。


「ひきずってなんか·····いや、引きずってないって言ったら嘘になる、多分俺の心の半分くらいをあの日の後悔が占めている、あの後悔だけがずっと俺の心の中にあるんだ」

「あの日の後悔ねぇ、お前はあの時のあの行動をどう思ってるんだ?本当に後悔しかないのか?」

「当たり前だよ、あの日の俺は馬鹿で、馬鹿で、どうしようもなかった、あんなことするんじゃなかった、あんなことをしなければ父さんは死なずに済んだかもしれないのに、正義のヒーローになりたいなんて思わなければ····」


歯を食いしばる。後悔の念がまた俺を侵食し始めた。


「あのなぁ、そんなに責任を負わなくてもいいんだぞ?あの日の湊の行動は確かに無謀だったのかもしれないけど、あの時のあそこで動き出すことが出来たお前は十分正義のヒーローだったと思うぞ」

「違う!正義のヒーローは誰も死なせない、正義のヒーローは皆を救うんだ、なのに俺は、俺はぁ!」


叫んだ、どうしてこんなにも自分の本心を吐露しているのだろう、俺はずっと隠してきたのに·····。


「誰も死なせないのが、正義のヒーローねぇ、な訳ねーだろ」

「え?」

父さんの予想外の返答にたじろぐ。


「いいか?湊、全世界の人々をもれなく助けるなんて不可能なんだ、むしろ助けられない命の方が多い」

「だけど、正義のヒーローってのは助けようとする信念がある、しかもそれを絶対に成功できるものと信じてやまない強欲さがある」

「しかし、これがまた困ったもんだよなぁ、たった一回失敗して、誰かを死なせてしまった時、正義のヒーローってのは人の数倍落ち込んでしまうんだから」

「お前のことだぜ、湊」

「俺が、正義のヒーローだって言うの?そんなこと·····」

「あるんだ」

俺の言葉を遮り、父さんは俺の頭に手を乗せる。


「あの日、お前はかっこいいヒーローだと俺は思ったぜ」

「··········」

父さんは俺を褒めてくれる。それはとても嬉しい。俺は正義のヒーローになっていいんだと思うことができるから。けど、俺は褒めてもらいたいんじゃない。俺は多分·····


「父さん、俺はあの時無謀にも特攻して、父さんを殺してしまった、その事実は変わらないよ」

「いや、しかし·····」

父さんの声が少し低くなった気がした。

たじろいでいるのだろう。


俺の後悔、それは今までずっと正義のヒーローになりたいと思って、行動した自分への後悔だと思っていた。

だけど、それは少し違った。今父さんと会ってみて分かった。話してみて気づいた。

俺は·····


「ごめんなさい父さん、俺があの時飛び出さなければ、父さんは死ななかった、だからごめんなさい」

俺は父さんの方に向き直り、ベッドの上で土下座して謝る。


俺はただ、父さんに謝りたかったんだ、父さんに許しを貰いたかったんだ。

それが俺の後悔の正体だった。


「!、ふっ、湊、顔を上げてくれ」

「?」

父さんの少し笑う声が聞こえたので、俺は顔をあげる。


「うぉ!?」

「湊ぉぉぉぉぉぉ!」

俺の体は父さんの強烈なハグにより、身動きが取れなくなっていた。

妖力出せば解けると思うけど·····。

俺はこの父さんの温かさを離したくなかった。


「湊、やっぱりお前は俺の自慢の息子だ」

「なんでそうなるのさ、俺は父さんを死なせちゃったんだよ?」

「ガハハ、何言ってるんだ、俺は今ここでお前とハグをしている、生きている証拠じゃないか」

父さんは豪快に笑った。

「ごめんなさい父さん、ごめんなさい、ごめんなさいっ」

俺の目からいつの間にか大量涙が溢れていた。顔も相当崩れているだろう。


「泣くな、泣くな、それに案外、冥界での生活も悪くないしな、むしろ何もしなくていいからちょー快適、漫画やアニメもあるんだぜ」


父さんは俺の頭をポンポンと優しく叩いてから、ハグをやめ、お互いに向かい合う姿勢になった。


「それに今日、湊、お前にも会えたしな」

父さんはサムズアップして、歯を見せて笑う。


「うん、俺も父さんにあえて良かった」

涙を吹く、ずっと涙垂れ流しじゃあ恥ずかしいからな。

「ガハハ、そうか、そうか、じゃあ、そこの二人にも感謝をしなくちゃな」

「え?」

父さんが後ろを指さすので俺は父さんの指の先を見る。

その先にはミラと師匠が立っていた。


「み、見てたの?」

恥ずかしさから顔が赤くなっていくのがわかる。体もなんか熱くなってきた。


「いやぁ、なかなかよかったよぉ、それに湊のあんな姿を見られるなんてなかなかないしね、グフフ」

「フン、どうでもいいが、話が終わったら早く修行をするぞ」

ミラは汚いおっさんのような声で笑い、師匠は相も変わらず厳しかった。


「あぁ、もう最悪!」

自分の顔を隠す他無かった。今俺のこの顔を見られたらもう恥ずかしさで死んでしまいそうだったから。


「あんなこと言ってるけどな、あの二人、どっちもお前のことめっちゃ心配してたんだぜ」

顔を手で隠してる俺の耳に小さい声で喋りかけてきた父さん。


「心配?」

「あぁ、あの二人はどっちもお前のことが心配だったんだよ、メイウェン・コーディナーさんはお前が気を失ってる間、「平気か?」「異常はないか?」って五分事くらいにこの部屋を訪れて言うんだ、そんなに短い間隔なら普通に待ってればいいのにな」

そう言って父さんは笑った。


師匠がそんなに俺の事を·····

ジーンと心に来るものがある。


「それにミラさんに至っては、もっと凄いぞ、お前が変な風になった原因が俺だって分かった瞬間、冥界に来て俺を探し出して見せたんだから」

「いいか?湊、冥界ってのは地球五個分くらいの大きさがあるんだ、その中からたった一人の人間を見つけだすなんて、なかなかできることじゃない、そんな重労働をなんの文句も言わず、ただお前の為だけにしたんだ、ちゃんと感謝しとけよ」

「·····うん、ありがと父さんそれを聞かせてくれて」


ミラも師匠も俺の事を心配してくれてたんだ、俺はそれに気づかないで·····

こんな俺にここまでしてくれたんだ、俺も前を向かないとな。


そして俺はベッドから降りて、ミラと師匠の元まで歩く。


「二人のおかげで、俺は前を向くことができた、今まで心配かけてごめんなさい」

「本当にありがとうございました」

そして深々と頭を下げた。


「え?あ、いや、えっとー」

ミラのしどろもどろする声が聞こえる。


「おい、顔上げろ」

師匠の声がしたので、顔を上げ、師匠と対面する。


「もう後悔はないか?」

師匠はそう問う。


「いや、まだあります、そりゃそうですよこんな短時間で長年抱えてきた後悔が消える訳がない」

「けど、自分の過去と向き合うことは出来ました」

「過去を思い出して、辛くなるようなことがこれからあるかもしれません、けどもう過去からは逃げません」


これは俺の覚悟だ、もう俺は自分の過去から逃げない、向かい合って生きていくんだ。


「そうか、ふっ成長したじゃねーか」

「!」

初めて師匠に褒められた!

嬉しい!


「湊」

後ろから俺を呼ぶ声がする。振り返るとそこには父さんが立っていた。


「お前はあの日の自分と向き合い、本当に生きていけるのか?それで大丈夫なのか?どうなんだ?」

父さんはそう聞いてきた。


「あぁ、もちろん大丈·····」

ふいに俺はミラの方を見ていた。ミラの顔は不安でいっぱいといった表情だった。


『あぁ、けど、もう大丈夫だ』

『もう大丈夫、大丈夫だから』

『大丈夫、大丈夫だよ』

あぁ、そうか気づかないうちに何回も何回も俺はミラに嘘っぱちの”大丈夫”を言い続けていたんだな。


なら俺が言う言葉は嘘にまみれた大丈夫ではなく


「ちょー余裕」

自信しかない表情を見せればいい。俺はもう心配されなくてもいいぞと余裕を見せればいい。

もうミラに心配させてくないから。


「そうか、なら安心だ」

そう言って父さんは笑ってくれた。


「ねぇ、父さん、一つだけお願いがあるんだけど·····」

「ん?なんだ?」

俺のお願い、それは·····


「その、頭を撫でて欲しい」

人差し指と人差し指をつんつんして上目遣いでそう頼んだ。


「あぁ、いいぜ」

恥ずかしさ満点のそのお願いに父さんは何も口答えすることも無く、差し出した俺の頭を優しいその手で包むように撫でてくれた。


あぁ、安心する。この父さんのでかい手が俺は好きだった。安らぎを感じることができるから。


「ちょっと私見てられないかも」

「手で顔を隠すなミラ、後でいっぱい湊を辱めてやるんだろ?」

そんなミラと師匠の声がしたが、今は聞かないことにする。



そして父さんは冥界に帰って行った。

帰る時、俺は少し泣きそうになったが、そこは何とかこらえることが出来た。もう二人に恥ずかしい姿は見せたくないからな!


「さて、お前に欲が受け入れる準備ができた所で、本格的な修行に入ろうか」

ミラが父さんを冥界に連れていった後、残った俺と師匠は修行することになった。

また始まる、俺の新たな日常が。


「返事は!?」

「押忍!」

再び、俺の修行が幕を開けたのだった。














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