第8話メイウェン・コーディナー
「これが理由ですかね?」
「そ、うか」
話し終えた静香はとてもスッキリした様子だった。
話を聞いていた俺は今にも叫び出しそうだったけれど·····
「じゃあ私は帰りますね」
「あ、あぁじゃあな」
そう言って静香は俺に背を向けて去っていき、姿を消した。恐らく目が覚めたのだろう。
「·····あんな重い過去を彼女は背負っていたんだね」
「···············」
「湊?」
「ん?」
「大丈夫?」
俺がぼーっとしているといつの間にか、ミラが俺の顔の目の前に自分の顔を持ってきていた。
そして不安気にそう聞いてきた。
「あぁ、大丈夫だよ」
「本当に?本当に大丈夫?」
なんだ?今回は随分しつこく聞いてくるな?
「大丈夫、大丈夫だよ」
「·····そっか、なら湊の家に戻ろっか」
「あぁ、そうしよう」
俺はいつもより暗く重い返事をして、自分の家への歩を進めた。
自分の家に戻った俺は妖力についての詳しい説明とシナリオボスがどこに存在しているかの説明をミラから受けて、二日目の夜を終えた。
次の日、俺は今日るー達と遊ぶ予定だったのを全てキャンセルして部屋に閉じこもった。
俺は一人になりたかった、だからお母さんにも無理を言って部屋に入らないようにと釘を刺しておいた。
そしてミラにも·····
「ミラ、今日は俺の部屋に入らないでくれないか?」
「どうして?」
「どうしてもだ、頼む」
俺が深く頭を下げるとミラは渋々ながらも部屋を後にしてくれた。
そして俺は一人になった。
ベッドに寝そべり、蹲る。
(大丈夫だ、忘れろあんな過去、あんな願望なんて、もう俺は正義のヒーローじゃないんだから)
俺はそう呪いのように自分に言い聞かせ続けた。
こんな風になってしまったのは訳がある、それは静香の過去が余りにも俺の過去と類似していたからだ。
よって静香の過去を聞いた俺は父さんが死んだ時のことを鮮明に思い出してしまった。
だからまた忘れようと、部屋に閉じこもったのだ。あの時のことを思い出した時はいつもこうして自分を落ち着かせているから·····。
「湊、絶対に大丈夫じゃないよ、凄く辛そうな顔してたし」
そうぶつくさ言いながら湊の家の廊下を歩く少女の姿があった。ミラである。
「私に何かできることはないのかな」
そう肩を落として呟くミラ。そんなミラの耳にもう一つの弱々しい声が聞こえてきた。それは今現在ミラが立っている所から見て右手の部屋からの声だった。
「あなた、湊がまた部屋に閉じこもっちゃったわ、あの時のことを思い出したんでしょうね」
それは湊の母の声だった。その声からは悲痛な思いが感じ取れる。
そして母は続ける。
「あなたがいればあの子はもっと前向きに生きられたんでしょうけどね、私にはどうしようもできない」
そう言い終えてから母の泣き声が聞こえてきた。
「やっぱりあの時のことが·····冥界に行くしないか」
ミラもまたもの哀しげな表情を浮かべてから、リマインドに戻るため、現実世界から姿を消した。
三日目のリマインドでの朝
「また、来たか」
俺はぼやける目を擦りながらまた同じような光景を目にしてベッドから起き上がる。
「あんたが湊ってやつかい?」
「うぉ!?誰だよあんた!」
すると俺の隣から強気な声が聞こえてきた。
俺が飛び跳ねながら、その声のした方を見やる。するとそこに居たのは長身で長髪の金髪に碧眼、きちんとアイロンのかかったワイシャツを着ている完璧美人がそこにいた。
「あたしかい?あたしの名前はメイウェン・コーディナー、ミラからはメンコって呼ばれてる、ちなみに日本語はペラペラだから安心しろ」
金髪の彼女は自信満々にそして高らかに自己紹介をした。
「あぁ、あなたが」
「?、あたしを知ってるのかい?」
「はいミラから聞いてます、妖力のスペシャリストだって」
「ガハハ、そうだぜ!あたしが妖力のスペシャリストメンコ様だ!」
メンコさんは強引に肩を組み、巨大な胸を俺に押し当ててくる。
「あ、あの、ミラはどこですか?」
「なぁお前、あたしのランキング気にならないかい?」
「え?いや、別にそんなには、そんなことよりミラはどこにって痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と突然横からの凄まじい衝撃と共に俺はベッドから部屋のドアまで吹き飛ばされた。
メンコさんによって殴られたのだ。
「あたしの話がそんなことなわけないよなぁ?」
「ひゃ、ひゃい」
とんでもない威圧を出しながら近づいてくるメンコさんに俺はクソほどビビり、情けない返事をする。
「そうだろう、そうだろう!なら教えてやろう!あたしの順位を!」
バンバンと調子良さげに俺の方を叩くメンコさん。俺はめんどくせぇと思いながらも
「わぁ!凄く楽しみですぅ」
もう二度とあんな怖い思いをしたくなかった俺は最大限メンコさんに媚びる。
「いいか?よく聞けよあたしの順位はなぁ、なんと堂々の八位だ」
「えぐっ」
勝手に口から出たこの言葉は俺の心からの言葉である。
「そんなあたしがお前に妖力の指導をしてやる嬉しく思え」
「はい!」
「返事は押忍だ!」
「押忍!」
俺になかなか癖が強く、実際実力も強い師匠が出来ました。
「じゃあまずは妖力の基礎からやっていくぞ」
「その前に師匠!師匠の救うべき人は大丈夫なんでしょうか?」
さぁ今から本番だ、という時に俺はずっと気になっていたことを聞く。ちゃんと手をあげてから聞く。
「それなら大丈夫だ、もうシナリオボスは倒してるからな」
「え?じゃあ今、暇してるって状態ですか?」
「まぁそんな感じだ、あぁ後言い忘れてたが夕陽静香のことは今は気にしなくていい、あたしのパートナーである死神が守ってるからな」
「そんなことまで、色々ありがとうございます」
「ガハハ、気にすんな気にすんな」
再び俺の肩を強く叩くメンコさん。
「じゃあ早速修行を始めるか」
「押忍!」
そう俺は張り切って返事をした。
「さて、ここら辺がいいかな?」
俺の家を出て、しばらく歩くと広い高原のようなところにたどり着いた。
マジなんもない。
「ここで何するんでしょうか?」
「妖力の出力操作だ」
「あー昨日ミラにも言われたやつですね、でもそれだけなら、こんな広い場所でやる必要はないんじゃないですか?」
「あーそれだけならな」
そう言って師匠はおもむろにポケットから鈴のような物を取り出して鳴らす。
「なんですかその鈴?」
「これはな夢鬼をおびき出す為の道具だよ」
「え?」
俺はとても嫌な予感を感じ、前方を見すえる。すると二百メートルぐらい先に波のように押し寄せてくる夢鬼の姿を確認することができた。
「あ、あれって」
「二十秒でいい、あいつらの攻撃から生き延びろ」
「いや、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理だってぇ!」
「四の五の言わずに成し遂げて見せろ、男だろ」
師匠は余りにも非情に俺を突き放した。
「えー」
「まぁ、死にそうになったら助けてやるよ」
めちゃめちゃいい笑顔でそう言われた。
「あーもう!やってやるよ!かかってこいやぁ!」
やけくそになった俺は全力全開の妖力を出し、自分の体を金色のオーラで包む。
そしてついに大量の夢鬼と接触した。
隣にいた師匠はいつの間にか消えていた。
「あんの、クソアマぁぁぁぁぁ!」
俺の叫びが轟いた。
「がっ!?」
その叫びの隙をついてかダチョウ型の夢鬼が俺の腹を鋭くつついた。
確かに痛かった。けど耐えられない程じゃない。俺も強くなってるんだ。
「オラァ!」
強くなったことを実感した俺は強気に笑い、そして拳を振るった。
夢鬼が近くに寄らないように必死に夢鬼を殴り続けた。
夢鬼は俺の拳によって弾け飛ぶものもいれば吹き飛ぶだけで済んでいたものもいた。
だが俺の拳を受け止められる夢鬼はいなかった。
殴る、殴る、殴る。
ひたすらに俺は殴り続けた、この状況から生き延びるために。
「はぁはぁはぁ!」
息が切れてきた。心なしか最初より吹き飛ぶ夢鬼が減ってきた気がする。
「ぐるぁぁぁぁぁ!」
「がっ!」
そしてついに俺は夢鬼に反撃を許してしまった。
「げぼっぉ!」
そこからは地獄だった。ただ痛いだけだった。
醜悪な笑みを浮かべた夢鬼に腹を殴られ、腕を切られ、顔を蹴られ、ただ無抵抗にボコボコにされた。
「ここまでか」
意識が今にも飛びそうになった時、どこからか安心するような頼もしい声が聞こえた。
そして次の瞬間、地獄の場からどこかの部屋へと景色がうつり変わった。
「ここ、は?がっ!」
「喋るな、傷口が開く、とりあえずこれを飲んどけ」
目もまともに見れず、状況があまり把握出来なかった俺だったが、その声の主から口に入れられた液体を素直に胃に入れ込む。
するとなんということでしょう、ひしゃげていた腕がいつものフォルムを取り戻し、ほとんど見えなくなっていた目がはっきりくっきり見えてきたではありませんか。
「うぉ!?なんだこれすげー!」
「これはあたしのの欲のうちの一つ”神の雫”さ、この雫を飲むとたちまち体のあらゆる部分が修復されていく、後私の部屋であるここに連れてきたのも私の欲”テレポーテーション”だぜ」
テレポーテーション・・・一回行ったことがあるところならば一瞬で移動できる。
見渡して見ると確かに俺の部屋では無かった。というか師匠の家広すぎ、下手したら学校の体育館ぐらいあるんじゃないか?
どうやら俺を助けた声の主は師匠だったようだ。クソアマなんて言ってごめんなさい。
「助けてくれてマジありがとうございます」
「礼なんていらないよ、そんなことよりお前の妖力の方だ、なんだ?あの拙い妖力の操作は?」
俺が土下座まですると、師匠は鬱陶しそうに手でやめろと表現する。
そしてあからさまな話題の転換をした。
「だって仕方ないじゃないですか、俺妖力の使い方なんて全然知らないんだから」
「それだよ、お前は知らないからという理由で何かを成そうとしている気持ちが足りてないんだ」
「気持ち?気持ちでどうにかなるもんなんですか?」
「あぁそうだ、いいか?妖力ってのは意志の強さによってその強弱が分かれることが多い、意志が研ぎ澄まされていれば弱く静寂でコスパのいい妖力が己の身を包み込み、意志が強ければ燃費の悪い激しい妖力しか出てこない」
そして師匠は「いいか?見てろよ」と付け足してから目を瞑った。
次の瞬間、部屋がサウナに変わった。
これは比喩でもなんでも無く、文字通りとんでもない温度に上がったのだ。
俺は毛穴という毛穴全てから汗が吹き出た。正しく灼熱と言えるほどの気温。
それに耐えきれずに俺の目が焼け焦げてしまう前に俺は思いっきり目を瞑る。
「師匠!暑い!めっちゃ暑い!」
「まだまだまだ!」
俺の言葉など一切聞かずに師匠はさらに妖力の出力をどんどん高めていく。
「くっ、もうダメだ·····」
暑さに耐えきれなくなった俺はその場で倒れた。
「あ、暑すぎる」
「あーすまんすまん、やりすぎた」
急に部屋の温度が下がった。
「っはぁぁぁぁ!暑かったぁ!」
俺はこれでもかと言わんばかりに大きく息を吸う。
良かった、俺まだ生きてる。
「さっきのが意志が強い状態の私の妖力、そして今この状態が意志が弱い状態、というよりいつも展開している私の妖力、よし湊全力で私に殴りかかってこい、妖力を使っても構わない」
「いいんですか?怪我しちゃうかもけれませんよ?」
「する訳ないだろ、そんな拙い妖力で、いいから早くかかってこい」
カッチーン、あぁ完璧に俺を怒らせたね?師匠。
俺は怒らせたら怖いってことをわからせてやるよ!
「覚悟しろよ!師匠!」
俺は全開に妖力を出して師匠になんの躊躇いもなく突っ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます