第2話夢の中

その女は唐突にやれ契約しろだとか、私は死神だーとか訳の分からないことを言った。けどどこかでワクワクしている俺がいた。


だからだろうか、俺はその女の話に乗ってしまったのは

「ねぇ、契約って何?後死神って?俺は何すればいいの?」

「その前に!私の手紙無視したことに対しての謝罪が欲しいかな!」

黒装束の女ことミラは両腕を曲げ腰に当てて頬をふくらませて怒りを表現する。可愛いと思ったのは内緒だ。


「いや、あの状況で行こうとする奴とかいないと思うんだけど」

「・・・それでも!来るのがマナーじゃないの!?」

女は若干気まずそうに顔を逸らしてから、開き直りそう言った。というか

「下で母さんが寝てるんだから、もうちょい静かに喋って欲しいんだけど」

「あ、それは大丈夫だよ、死神は普通の人には見えないし、声も聞こえないから」

「へぇーそんな能力があるんだ、すごいな、え?じゃあなんで俺は見えてるんだ?」

「えへへ、まぁそれほどのことではあるのだけれどねぇ、後君が私のことを視認できてる理由は君が私と契約したら教えてあげるよぉ」

俺が褒めたらすぐに体をヘニョヘニョさせニヤケ顔を浮かべる。

分かった、この女めちゃくちゃチョロい。


「まぁ、そういうことは置いといて、とりあえず手紙無視してすまん、普通に怖かったんだ」

「!、あ、いやその私の方こそごめんなさい、確かにいきなりあんな手紙を渡されても混乱するだけだったかも」

俺が頭を下げると、慌ててミラは両手を振り、否定するように頭を横に振ってから、頭を下げた。

自分が悪いところもあったとでも思ったのだろうか?

多分ミラは悪い人、いや人じゃなくて死神というのか?この場合、まぁとにかくミラは悪い死神ではないと思う。今までの言動を見て俺はそう確信を持った。


「なぁ、契約についてとか色々話を聞かせてくれないか?そして死神とはなんなのかっていうのもな」

そして俺はこのミラを信じて、話を進めることにした。

あとちょっとした好奇心もあったしな。

「うんわかった、じゃあまず死神について説明するね」

「ああ、よろしく頼む」

「死神、それは人間の魂を管理する存在」

「そしてその魂の溜まり場であり、死神の職場でもある場所が人間が見る夢の中の世界、リマインドという場所なんだ」

「そして君にはあるミッションをこなして貰いたいの」

「ミッション?」

俺が情報を整理しながらミラの話を聞いていると何か重要そうな単語が聞こえてきた。


「単刀直入に言うと、君がいつも一緒にいる五人の一人夕陽静香がもうすぐ死んでしまうの」

「は?」

俺は何を言っているこいつと言わんばかりに口を開けて呆然とする。

静香がもうすぐ死ぬ?何言ってる?だって今日も元気に話してたじゃないか、なんでそんな、有り得ないだろ、、、、

「信じられないでしょ、でも本当のことなんだ、こんないきなり現れた私の話を信じることは出来ないと思うけど・・・」

「・・・それはもう絶対のことなのか?」

俺は藁にもすがる思いでそう聞いた。


「うんうん違う、助けることが出来るんだ、その為には私と契約して、一緒にリマインドに行って貰わなきゃならないの、詳しい説明はリマインドに行ってからするから」

「なんだよ、それ、怪しすぎるだろ、夢の中の世界リマインドとか言うやつもふざけてるとしか思えない」


「けど、けどもし君の言うことが本当だったとしたら、ここで契約しないって言ったら俺は一生後悔する、と思う」

「だから俺、君と契約するよ」

俺は笑ってミラに手を差し伸べた。


「え?いいの?契約というものをよくわかってない状態でそんなこと言って」

「うん、どんな契約内容だとしても俺の決断は変わんないよ、俺は何よりもあいつのことが大事だから」

「!、·····分かった、じゃあ私の左胸を触って」

ミラは少し動揺したからか、突拍子もないことを言いのけた。


「え?胸?」

「そう胸、死神と人間との契約には魂の先端に触れることが必要なの、そしてその魂があるのが左胸ってわけさ、心臓も左胸寄りにあるって言うでしょ?分かったら早く触ってよほら」

そしてミラは自分の胸を押し付けるようにずいっと近づいてきた。

俺はミラが近づいた分後ろに下がる。童貞の俺にそんなことをしろと!?


「あのー指先でいいですか?」

「え?まぁいいけど」

俺は顔を右手でかくしながら左手の人差し指だけを立てて、そう言った。


「じゃあ失礼します」

俺は顔を仰け反らせ、人差し指を徐々に徐々にミラの胸に近づけていく。

「なんか、ちょっとキモイなー」

「がふっ!」

その俺の挙動が不審だったのか右手の指の間から見えるミラの顔は若干引いていた。しかし、俺の指が止まることはない、そこにエデンがあるのなら俺が止まることなど有り得ないのだ。

そしてついに俺の指がエデンの先端に触れた。

「はう」

この声はミラの声では無く、俺が出した情けない声であった。

そしてその瞬間俺の指先から眩い光が発せられた。その余りの眩しさに俺はつい目を閉じてしまう。


「これで契約は終わりだね、じゃあちょっと前の質問に答えるね」

光がやっと収まり、俺も右手を下ろした後、改まってミラは昔話をしてから話すねと言ってから説明をし始めた。

「昔昔、死神は魂の管理というなんの抑揚も持たない仕事に飽き飽きしていた。そして死神は死期が近い人間とその周りの健康な人間に目をつけた、死神はそんな人達を見てあるゲームを思いついた、それは死期が近い人間関が近くにいる健康な人間をその死期が近い人間を救うためにリマインドに行かせ、そしてリマインドで死期が近い人間の魂を守り切ることができた時、その死期を消し去ってあげるというものだった、しかし大前提としてこのゲームを始めるためには死神のことを視認してもらわないと行けない、だから君は私を見ることができたんだ」

「そして私は君をサポートする死神、所謂パートナーだね」

「なるほどなぁ、他にはないのか?」

俺はさらに説明を続けることを促す。


「うん、あるよ、けどここから先は実体験してもらった方が早いと思うから、君には早く寝てもらって、夢の中でもう一度会おうね」

そしてミラは手を振って、光の粒子となって消えていった。


「なんか、すごい勢いだったな、まぁいいやとりあえず寝るか、夢の中の世界リマインドねぇ、どんな世界なんだろう」

そう思い立った俺は部屋の電気を消し、高揚する自分の心を落ち着かせ眠りについた。



「はっ!」

俺は突然に目が覚めた。そして最初に見たものとはモンスターや、エルフとかではなく俺の部屋の天井だった。


「え?」

何もかわっていないことに戸惑いを隠せない。

「あ、目が覚めた?ここが夢の中の世界リマインドだよ」

とベットに寝ている俺の視線にミラが顔をひょこっと出して優しい声色でそう言った。

「まじか、あんま現実世界と変わんないのな、それに意識もはっきりしてるし、これも契約の効果なのか?」

「うんそうだよ、皆無意識下では寝ている間ずっとここにいるんだけどね、けれど死神と契約すればリマインドにいる間も意識を保っていられるんだ」


ミラは少し自慢気に腰に手を当てて鼻を鳴らしそう言った。

「なるほどなぁ」

「まぁとりあえず外に出よっか、外は結構違ってると思うから」

そう言ってミラは俺に手を差し伸べてきた、俺はその手を迷いなく受け取り、ベットから下りた。


「うぉ、ほんとだ全然違う」

俺がミラと共に家の玄関から外に出ると、外の世界は凄まじい混沌になっていた。

現実世界での俺の家の前には普通の一軒家がたっているが、今俺の目の前にある建物は皆大好きテーマパークのディジニィーランドだった。

そしてその隣には遥か上空まで伸びる高さ六百三十四メートルのタワー、東京スケイツリーがあった。

「やば、なんかちょっと興奮してきた」

俺は目の前に広がる非現実に心を踊らせる、そして今から始まる色々な妄想を己の頭に構築して、ニヤケ面を浮かべる。


「そうでしょう?けどね、この世界には敵もいるんだ、ほらあそこ見てみて」

そう言ってミラは俺から見て右方向を指さした、その方向に視線を向けると・・・

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!誰か助けてくれぇー!」

中年くらいの男性が汗を必死にかきながら何かから逃げていた。

そしてその中年の男性の後ろには体長五メートルくらいのイノシシのような化け物がいた。

そしてその化け物によって中年の男性は食われてしまった。


「な、んだあれ」

「あれは夢鬼って言って、夢の中だけに現れる、人の不平不満によって作られた人の魂を食い尽くす化け物なの」

俺がその光景を言葉を無くし、立ちすくんでいたら隣にいたミラがそう淡々と説明した。


「夢から覚めると、なんだか悪夢を見たなぁって思うことあるでしょ?その原因が夢鬼なの、夢鬼に魂を食べられるとその日の朝は凄く気分が悪くなるの、まぁ何も覚えていないんだけど」

「死ぬことは無いってことか」

「さっきのおじさん見たく健康な魂ならね」

けどとミラは付け足してから今度は俺の左方向を指さした。


「!、静香!」

その方向には静香がフラフラになりながらも何とか歩いている姿があった。

どことなく、体が薄くなっている気がするが・・・


「あれが死期が近い人間、そして死期が近い人間が夢鬼に食われると死が確定してしまうんだ、死期という曖昧なものではなく確実な死が訪れてしまう」


それはとても衝撃的なことだった、そこまで夢の世界と現実世界がリンクしているとは思ってもみなかった。それほどまで魂というものは人間にとって大切なものなのだろう。

「・・・、じゃあもしかしてこの世界で静香を守るのが俺のミッションってこと?」

「うんそうなるね」

「じゃあ俺はいつまで守っていればいいんだ?いつが終わりなんだ?」

「守るとは少し違うんだ、さっきは守りきると言ったけど、それじゃ前には進まない、君にはシナリオボスを倒してもらう、これが静香ちゃん救うためのゲームのクリア条件なのさ、まぁだから要約すると静香ちゃんを夢鬼から守りながらシナリオボスを倒さなければならないってことだね」

「なんだよそれ」

謎の単語がまた出てきた。ほんとに頭がおかしくなりそうだ。


「シナリオボスっていうのはね、そこら中に湧いてる夢鬼なんかじゃなく、死神協会が作った強大な夢鬼なの」

「つえーのか?」

「とても強い、けどレベルはそのプレイヤー、つまり君の事ね、に合わせているから命をかければ倒せなくもない」

「命をかければ・・・」

「”己の命をかけなければ、他人の命を救えることなど到底不可能だ”、これは死神の間では有名な言葉なんだ、けどねもし君が命をかけてそのシナリオボスを全て倒すことができたのなら、静香ちゃんよ死の運命を変えることが出来る、死神は魂の管理と同時に人の死期を操ることもできるからね」

凄いでしょと付け足してミラはにっこりと微笑んだ。


そうだな凄いよお前は、俺の努力次第であいつを救うことができるのだから

「なるほどなぁ、けど俺に救えるのか?俺凄い力とか持ってないけど」

「そこに関しては大丈夫、君にも妖力という死神と同じ力が使えるようになるから、まぁ今は持ってないし、死神のように現実世界では使えないけどね、それでもね、使えるようになると身体能力が格段に上昇したりするのさ」

「ふっ、なんかちょっと面白くなってきたなぁ、よっしゃぁっ!俺が必ず救ったる!」

俺は両手を雲ひとつない癖に太陽がない青空に向け高らかに掲げる。


「よぉし!その意気だよ!あ!あとねこの世界で死んでしまうと・・・っ!危ない!」

さらにミラが重要そうなことを言おうとした瞬間ミラは一瞬後方を向き、そして慌てた表情になってから俺の方を向いて手を伸ばしてきた。

「ブヒィァァァァァァァァァァ!」

しかしその手は俺に届くことは無く、ミラはバランスを崩し転んでしまう、そしてミラの後方からさっきの巨大なイノシシの夢鬼が現れた。毛が逆立ち目が赤く光り、到底俺が見た事のあるイノシシとは思えなかった。


「逃げて!」

ミラはそう言っているが、俺は動くことなど出来なかった、今この状況で正常な判断などできるものか

「なんだよ、、これ」

そして俺はその突然現れたイノシシによって食い殺された。











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