第1話異世界は夢の中で





『ミーン、ミンミンミン』

蝉の鳴くうるさい鳴き声を目覚まし時計としながら、俺は目を覚ました。


「なんかすげー嫌なことがあった気がする、覚えてねーけど」

手で欠伸の吐息を抑えながら、上半身にかかっていたシーツを剥がし、ムクリと起き上がる。

「湊ー、そろそろ降りてきなさーい」

「はーい」

すると下の階から母さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は間の抜けた返事をして、ベットから降りる。

そしていつもの流れでパジャマを脱ぎ、学校に着ていく用の服に着替える。まぁいわゆる制服だ。

紺色の制服に腕を通し、制服の二つのボタンをきちんと閉めてから、部屋のドアを開けた。


「ふわあぁぁぁ」

そして眠気を我慢しながら、部屋のすぐ前にある階段を降りていく。

階段を降りたところにあるリビングへ続くドアを開ける。するとリビングの中にいたのは朝ご飯をテーブルの上に並べる俺の母さんの姿であった。

「おはよう湊、朝ごはんできてるから、早く食べなさい」

「おはよぉー母さん」

毎朝早く起きてエプロンをつけ、朝ごはんを作ってくれる母さんに感謝しつつ食事の席に着く。

「いただきまーす」

と言っていつも通り上手い飯を食べ始めた。


「湊、今日って終業式の日でしょ?」

ウインナーを食べている時にエプロンを外した母さんがテーブルの近くにあるソファーに座り、そう聞いて来た。

「うん、そうだよ、そして明日は待ちに待った夏休み!中学校最後の夏休みを謳歌してやるぜ!」

と頭の中でどんな夏休みを送るのか想像しながら意気揚々と答えた。

「全く、少しぐらいは勉強しなさいよ、受験生なんだから」

「へーい」

と母さんのそんな助言を耳から耳へ流した。


「じゃあいってきまーす」

朝ご飯も食べ終え、諸々の支度を終えた俺は玄関のドアに手をかけながら、現在家の掃除を行っている母さんに向けそう言ってから、外に出た。


俺の学校は徒歩十五分くらいのところにある。距離でいえば一・五キロくらいだ。うちの校則だと二キロ以上家が学校と離れていれば自転車を使ってもいいのだが、俺はそのラインをギリギリクリアしていなかった、よって今日も頑張って光ってる太陽さんの下の元汗を存分にかきながら歩くことになる。

『ミーンミーンミンミンミン』

『ミンミンミン』

と蝉の音が何回も何回も俺の耳の中で響く。めちゃくちゃうるさい。

そんな蝉の音を我慢しながら、何とか俺が通っている白石中学校に着く。

汗を地面に垂らして中学校の校門を跨ぐ。

「やっどづいだぁ」

枯れた声をあげ、校舎内に足を踏み入れる。多くの生徒が通っているこの中学校はもちろん下駄箱も巨大である。しかし、俺はこの中学校に約二年と四ヶ月くらい通っている、そうとなれば迷うことなく自分の下駄箱に行くことは容易である。


そして俺の下駄箱までの最短ルートを進んでいると、丁度俺の下駄箱辺りに髪をポニーテールに纏め黒装束を着た、まぁ変な女が立っていた。スタイルは綺麗だけども。


そして俺はあることに気づく、周りの生徒がその女に気づいてないのだ。というか多くの生徒がその女の体を貫通してるのだ。俺は目を疑った。そして目を擦りまた目を開けるとあの女がいた場所には誰もいなかった。


「目、疲れてるのかな」

目をぱちぱちさせ、目が正常か確かめる。大丈夫、正常なはずだ。俺はそう信じてる。

「よし、教室行くか」

俺はさっきの女を記憶の中から消し去り、気を新たに自分の下駄箱の所まで行き、そして下駄箱の小さいドアを開ける。すると中には一通の手紙があった。


「あ、」

俺の頭の中をさっきの女の記憶が駆け巡る。

「ま、まさかなぁ」

恐る恐るその手紙を開け、中身を見た。そしてその手紙の内容に絶句する、と言うより恐怖する。手紙に書かれていた内容とは

”貴方に私と契約して欲しいの、詳しい話は今日の放課後するから授業終わったら校舎裏に来てくれるかな?”

(行けるわけねーだろ!)

なんだよこれ、めちゃくちゃ怖いんですけどぉ!え?何契約って、悪魔なの!?ああ、数々のラノベを見てこんな世界があったらなぁって思ったことは確かにあったけども!実際に起こるともう怖いわ。


やべぇ、俺初めて心霊体験してしまったかもれない。

「ヤベーよ、絶対ヤベーよ、もうどうしよう」

「何がどうしようなんだ?」

「ひゃい!・・・ってなんだただの涼真か」

「ただの涼真かって、なんか酷くね?」

悩める子羊である俺の肩を叩いてきたのは中一から仲良くなった如月涼真だった。咄嗟に持っていた手紙を涼真から見えない方向に隠す。

髪は坊主で、気さくがよく、目鼻立ちがはっきりとしたイケメンである。さらに付け加えると野球部に所属している。いや、していた。もう引退してしまったけど。


(さて、涼真にこのことを言うべきだろうか?・・・いや、これは俺の問題だ、それにこいつを巻き込みたくない、言うのはよそう)

俺は誤魔化すことに決めた。

「はは、なんでもねぇよ気にすんな」

俺は涼真の肩をポンと叩いてから

「俺ちょっと用事あっから、先教室行っといて」

「ああ分かった、遅れんなよ」

と涼真は軽く返事をしてから駆け足で教室に向かっていった。


「おー、、、、さて行ったか」

涼真がちゃんと教室に行ったのを確認してから俺は下駄箱の底に隠してた手紙を再び取り出す。

「これどうすっかな?」

こんな謎の手紙の言う通りにする必要は全くない、けど従わなかったら従わなかったでなんか酷いことをされそうでもある。

「んーーーー、よし無視しよう」

少し悩んだが、無視することにした。だって、多分誰かのイタズラだろう、さっきの黒装束の女もきっと見間違えだ。そうだきっとそうだ

俺はそう自分に言い聞かせ、手紙をカバンの中に入れ、上履きに履き替えてから自分の教室に向かった。


「おはー」

と俺は軽い挨拶をしながら教室に足を踏み入れる。

「おはよう!湊!」

とそんな俺にいの一番に声をかけてきたのは幼なじみの一ノ瀬瑠々華だった。皆からはるーと呼ばれてる。

「よっ、るー」

「うむ元気でよろしい!」

とるーはうんうんと首を動かし、チャームポイントであるアホ毛を上下に揺らす。


すると「やっぱ一ノ瀬さん可愛いよなー」「ああ、あのアホ毛がなんともいえん」

と言う周りの生徒のるーを褒め称える声が聞こえてきた。

まぁこうなるのも仕方がない、なぜならるーはめちゃくちゃ可愛いのだ。

髪は綺麗に切りそろえられたショートカットで、保護欲をそそるような幼い目を持ち合わせ、背は高くも低くもない中くらい、その背丈にあったうちの中学の紺色の制服がよく似合っている。


幼なじみの俺ですらたまにドキッとすることがあるくらいだ。

「どうしたの?」

「いやなんでもない、つーか明日から夏休みだよなぁ、何して遊ぶ?」

るーは下から目線でしかも小首を傾げながらきいてきた。それが!人を勘違いさせるのですよ!おわかり!?

とそんなことを言えるはずもなく、俺は顔を逸らしながらそう聞いた。

「うーんそうだな?私はいつもの六人組で旅行とか行きたいかな?」

「旅行か、確かにいいな」

「でしょー?ってあ!おはよ!しずしず!」

と話の途中でるーが後ろに向け突然叫んだので、俺は後ろを向く。

俺の後ろにいたのはいつもつるんでるうちの一人夕陽静香だった。


るーとは違い、黒髪を長く伸ばし目にかかっている。しかし、その髪の下からでも分かる綺麗な茶色の瞳が見える。

夕陽静香、クラスでもあまり目立たない方であるが、前に静香が俺の好きなラノベを見てたのを見て、俺が話しかけてから俺達のグループとつるむことが多くなった女子だ。


「おはよ、静香」

「おはようございます、湊さん、瑠々華さん」

と静香は礼儀正しくお辞儀をした。

「もう、さんづけはやめてよぉ」

とるーが頬を膨らませながらそう言った。

「いえ、私なんかがそんなことできません」

対して静香は手を左右に振りながら全力で否定する。

「おいおい、るーやめてやれよ、静香も困ってるだろうが」

そう言いながら話に入って来たのは涼真だった。

「あ、ごめんしずしず」

「あ、全然大丈夫です、と、ところでなんの話をしてたんですか?」

るーがしょんぼりしたのを気まずくおもってか静香は話題の転換を試みる。

「ああ、夏休みの予定について話してたんだ」

「あ、なるほど」

俺がそう端的に伝えると納得したのかうんうんと静香は顔を上下に振った。


「くんくん、匂う、匂うねぇ、面白そうな匂いがここから感じますねぇ、そうでしょう?助手の竹ノ内君?」

「なにやってんのさ立花、傍から見たらただのバカだよ?」

鼻をピクピクさせながら、躙り寄るポニーテールの女性、橘立花とそれを咎めるように目を細める小太りの男、竹ノ内翔が俺達の輪に入ってきた。


橘立花、彼女は探偵部という独自の部活を作り、いつも何かを探している。顔はるーと違った、少し大人びた顔立ちをしており、そのギャップをつくようにポニーテールを荒く纏めているところが他の男子から密かに人気を集めているらしい。しかもスタイルもいいと来た。


竹ノ内翔、彼は橘立花と同じ探偵部に所属している。探偵部に所属する前は根暗で小太り、まるで陰キャの体現者のような存在だったらしいが立花に誘われてから、少しづつ明るいキャラクターになって行った。


「おー、おはよう!お二人さん」

「「おはよう(ございます)」」

るーが片手をあげ、二人に挨拶をする。それに続き、俺達も挨拶をする。

「おはよう!皆の衆」

「おはよう」

それに対し、立花は明るく、翔は平坦に答えた。


「さて!いつもの六人組が揃ったところで夏休みの予定について話すとしようか!」

とるーが意気込み俺達は夏休みの予定について話し合い始めた。


しばらくして・・・

「おーい、お前ら席につけー」

そう言って俺のクラスの担任が横開き式のドアをガラガラと開き、のっそりと教室に入ってきた。

俺達はその先生の言う通りに急いで自分の席につく。


「ええ、明日から夏休みであるが、学生としての本分を忘れないように過ごすこと、さらに言えばお前達は受験生だ、ちゃんと勉強もしろよー」

などと先生の代名詞のような言葉を俺たちに言ってくる。正直大半の生徒がこの言葉を聞いていないと思う。


「じゃあ、あと五分したら終業式だからな」

長々とした先生の話を聞かされた後に先生は教室を出て職員室に向かった。


「やっどおわっーたぁー」

俺は自分の机に寝そべり、そう嘆く。

「いやー、ほんと長かったねー」

と隣の席の女子が言った。

「なぁよく先生も飽きないよなぁー」

「ねぇ、あっそろそろ終業式だ、早く行こ」

と俺達は二人で歩き出した。はずも無く普通にそれぞれの友達と一緒に体育館へと向かった。


「えー、一年生は初めての夏休みをはしゃぎすぎないようにしてください、一年生から受験は始まっています、勉強も怠らないようにしておくこと、次に二年生、三年生が卒業したら次の学校顔は貴方達です、その自覚をきちんと持ち、夏休みを過ごすこと、最後に三年生、君達は受験生です、最後の追い込みとして夏休みを利用すること、いいですね?」

最後にそう俺達に問いかけてから校長先生は壇上から降りた。

いや、なげーよ、もっと端的に話せよ。


さらに時がたち

「ふぅ、じゃあ今日は解散にして、明日から遊ぶぞー!」

「「おー!(です)」」

終業式が終わり、るーが両腕をあげて伸びをしながらそう言った。それに対し俺達は各々手をあげて明日から始まる夏休みに思いを馳せて、太陽が真上に登った頃俺達はそれぞれの帰路についた。

手紙のことはもう俺の頭にはなかった。


「ただいまー」

と俺は若干疲れた声を発しながら、家に入る。

と言ってもまぁ家には誰もいないのだが、この時間は母さんがパートに出ている時間だからだ。そして俺の父さんは・・・


「父さんただいま、今帰ったよ」

と俺は父さんの遺影が置かれている仏壇の前に座り、そう言った。

「父さん、今日は終業式だったよ、そして皆で夏休みの予定立てたんだ、バカみたいな予定ばっかだけど、すっごい楽しみ」

俺は仏壇にいる父さんに向かって独り言をつぶやく。


父さんは七年前、ある事件によってその命を落とした。そしてその事件の原因は俺だった・・・。

「父さん、俺立派に生きれてるかな?いや、そんな訳ないか勉強とか苦手だし、正直いつも遊ぶことしか考えてないからなぁ、俺は」


「·····じゃあ俺はもう行くね」

しばらくそこに座ってから、俺は立ち上がり礼をしてから父さんの仏壇が置かれている和室を出た。


それから母さんが帰ってきて、二人で一緒に飯を食った。お金は父さんが残した資産として二千万程ある。だから食うのには困らない。

その後風呂に入り、少し勉強してから十二時を回ったところで俺はようやく寝床についた。


ベッドの上に寝そべりリモコンで電気を消した後目を瞑った。その瞬間

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」

と部屋にものすごい怒号が轟いた。

「どぅわぁ!?」

その声に俺は目を開け、その驚きからベッドから転げ落ちる。

「なんだなんだなんだ?」

俺は慌てながら電気をつける。

そして電球が光を持った瞬間、俺の前に姿を現したのは、今日学校にいたあの黒装束の女だった。

「・・・・・・いや、有り得ねーだろ」

俺は絶句した。


「なんで、あの手紙を無視したの!?私ちゃんと配慮したんだよ!君が一人で喋る痛いやつにならないように校舎裏に呼び出したのに!なんで!?」

その女は紫色のポニーテールを左右に揺らし、怒りを体現していた。その髪と同じ紫色の瞳もどこか怒りの炎が灯っているように思えた。


「・・・・・・・・・」

俺は今の状況が理解出来ずフリーズする。

「と、とりあえず君は誰?そしてなんの為にここにいるの?」

俺が自分の思考を落ち着かせようとその女にそう尋ねた。

「私?あっ、そっかまだ説明してなかったね、私は死神協会所属の死神ミラって言うんだ」

「そして湊君、君には私と契約をして欲しいんだ」

その女は不躾に無作法にそんなことを言ってきた。

これが普通の中学生の俺と死神のミラとの出会いだった。








































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