プロローグ 銃と兎と追走疾走
剝き出しの配管と隙間から漏れる蒸気が目立つ町、その路地裏をネズミが下水道を走り回るように逃げる男が一人。ハァハァと息を切らせ止まることを許されないかの如く走る、「ちくしょう!なんで…なんで俺が!」もはや足取りもブレはじめ廃ビルの壁に肩がぶつかる、それでも男は食いしばり意地でも走る。
その後ろ、別の男が逃げる男を追いかけている。右手には厳ついデザインの銃を握り左手は耳に着けた無線機を抑えている。「おーい!待てって、別になんもしねーって!なーんで止まんねーかなー…」走りつつ愚痴をこぼした、まるで仕事が終わらなくてイライラしてきたサラリーマンのように。
そんな二人を見下ろし追いかける小さな影、ビルからビルへとまるでアメコミヒーローが摩天楼を駆け巡るかのように跳んで追いかける。頭には銃を持った男と同じような無線機と目元に小さなスコープが着いている、「次の道、右に誘導!袋だぜ相棒、捕まえな!」人ではないであろうそれは無線を通して相棒と呼んだ男に言った。
相棒と呼ばれたその男は微かに笑みを浮かべると銃口を逃げる男の左側に向けて引き金を引いた、破裂音が夜の街に響き逃げる男の左側の配管に当たる。「ヒィ!」と叫び右の道、袋小路へまんまと入ってしまう。
逃げ道を失い膝に手をついてその場で足を止めてしまう。やっと追いつき「ふぅ」と一息つく男。汗をダラダラと流し、顔をほんの少しだけ上げて逃げてた男が追いかけてきた人物に声を掛ける、「あんた…あんた何なんだよ!俺がなんかしたっつーのかよ!えぇ!!」荒々しく声を上げる、抵抗という意思は無いのだろう。
聞かれた男はほんの少しだけ息を整えると答える、「落ち着けよ、おめーになんもしねーよ…つかよ、それより…」そこまで言うと慌ただしく無線が入る、「
その瞬間だった。袋小路の壁の一部分が車一台が通れるほどに砕け散った、いや、「はじけ飛んだ」のだ。衝撃が音と塵となり男たちを撫でるように通り過ぎる、だがその銃口はブレることなくそれを見つめていた。壁をぶち抜いたそれは全身がまるで岩のようであり、獲物を仕留め損なったその苛立ちをぶつけるかのように壁を殴るとその壁は砕け散った。
「おいそこのひょろっちぃゴボウ野郎、後ろの玉無し野郎をこっちに渡しな。そんでそのままお家に帰ってママとおネンネしたら明日も穏やかに過ごせるぜ。」挑発なのか脅しなのかどちらとも取れる言葉を投げかける。しかし男もまた『口が悪かった』。
「あ?ゴボウ?よく見ろよダイコンくらいはあらぁ!お前こそ鏡見た方がいいぜ、そんな体じゃ女も抱けねえ、かわいそうになぁ…ティッシュにしか種が撒けねぇなんてよぉ…」ニタニタと、ねちっこく笑いながら。
文字通りの『煽り文句に買い文句』喧嘩の売買は育ちの悪さか。売ったら買われ岩のような男は当然『ブチ切れた』。
大きく横に振られた巨腕は振ったその衝撃だけでも地面を抉った。衝撃波がたどり着く前に反応した男は後ろに兎のように縮こまっていた男の襟を掴み後方へと力強く跳んで避けた。ギャーギャーと叫ぶ
「十年分だ。」そう言うと耳鳴りのような音が響きだす、まるでその音の正体を知っているのか岩のような男は言った、「この音…⁉まさか、お前は…?!」しかし、男がその言葉を完全に言い終えることはできなかった。
振り降ろされた撃鉄は小さな稲妻を放ちサーキットマシンが通過するような爆音が響いた、打ち出された閃光は『まっすぐに』男の体に突き刺さる、身じろぎ一つしない男、まるで時でも止まったかのように苦痛のような静寂の音がその空間を包んでいた。その長くもわずかな時間の後に岩のような男は切り倒された大木のように倒れた、血を吐くでもなく。
「お…終わったのか?そいつは死んだのか?」男は恐る恐る物陰から覗き込んでいた、「おう、ちゃーんと処分したぜ。」得意げに、獲物を仕留めた猫のように男はまた笑って見せた。
男は事の説明を始めた。終われていた男が実は『
「そ、そうだったのか…あんた俺を…」安堵と感謝の気持ちが押し寄せ尻もちをつくように倒れこむ、ありがとう、たった一言の感謝の言葉を漏らすように述べた。
が、男が欲しいものは『そんなもの』ではなかった。
「え?あー違う違う。それじゃないそれじゃない。」その返答に座っている男も頭の上は『?』を浮かべていた。それも無理はない、男はまだ気づいていないのだその人物の『職業』を。
「わかんだろ?金、かーね!マニー!キャッシュ!ドルでもポンドでもねーぞ?円だ!」しかし男はまだ『?』であった、それもそうだろう『依頼』したのは彼女で男ではないのだ。
「いや…でも金って彼女が払ったんじゃ…」当然の返し、しかし無情な現実が返ってくる。
「お前さ、美人局だったんだぜ?俺が仕事を受けなきゃ今頃ハンバーグだったんだぜ?まぁ、払う理由ってのが分からねんだろうけど。言うならば『彼女が』お前に生きたい、死にたくないって『言われた』らしいぜ。」
女が吐いた大嘘、当然男は納得がいかない「ふ、ふざけんな!!それで俺が払うわけないだろが!!第一…」そこまで言いかけて男は何かを思い出したかのように男の顔を見上げた。「あんた…まさか…『処分屋』か?」
そう言われた男はちょっとだけ笑みを浮かべるといつまでも座ってる男の襟を掴み上げて立たせた。「納得しねーのも無理ね―わな。だが払ってもらうぜ80万。」突きつけられた金額を聞き口を開けてパクパクとする男。畳みかけるように処分屋と呼ばれた男は言った。
「美人局に気付けないほど金には余裕があんだろ?ホントは100万だが20万は女が出した、あんたは残りだ。女が言うにはあんたの貯金も精々60万なんだろ?残りの20万は夜もやってる『
「知らねーよ、鼻の下伸ばして女にホイホイついてったおめーが悪いんだよ。納得いかねーんじゃねんだよ『納得するんだよ』わかるか?つか、わかれ。」
処分屋が一切まける気がないことを悟りうなだれる男、あきらめるように『納得』した男はやがて弱弱しく「わかったよ…」といい近くのATMへ向かった、足りない分は『借りて』。
男から金を受け取り処分屋は背を向けて歩き出す。蒸気が漏れる路地裏を抜けて大通りへ出るころ、上から小さな影が彼の肩に跳び乗った。「いやー、ナイスビジネス!やったな相棒!」肩に乗ったそれは声高々に言った、大通りの街灯に照らされて現れたその姿は小さな兎だった。
「オズ、久しぶりにいい金も入ったしどっか寄るか?」男は兎をオズと呼んだ。
「マジ?!いいの?じゃあオレ女の子と遊びたーい!」調子がいいのかオズは要求した。しかし、瞬で「ダメだ。」と帰された。
「んなものよりメシにしようや。」「ふつう過ぎ、ヤダ。」「看板娘、めっちゃ可愛いぞ。」「行く!オズ、行きまーす!!」
楽し気な会話が続く一人と一羽、ビルだらけの街を歩いていく。後の運命がどれほどの道のりであるとも知らず…
フライシュッツ ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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