第88話   幕間 〜 木村大和

 頭から被る水道水が火照った体を冷やしてくれる。

 そろそろインターハイ出場選手の選考時期ということもあり、今日の練習はいつも以上に白熱していた。

 紅白戦後半から出場した俺は2得点を上げ、何とかコーチにアピールすることができたと思っている。

「課題は前線へ上がるタイミングが掴めていないところだな。」

 今年からミッドフィルダーに定着した相馬は、俺と同じ2年生だ。

 卒業してしまった高梨先輩よりもパスのタイミングが少し遅い。

 その分周りを見ているとも言えるが、中盤でカットされるリスクが大きいとも言える。

 僕は蛇口を捻って水を止めると、水道の脇に置いておいたフェイスタオルを取ろうと手を伸ばした。

 丁度いいタイミングで誰かが俺の頭にタオルをかけてくれた。

 きっと日菜乃であろう。

 ここ数日は日菜乃に避けられているような気がしていたが、それも杞憂だったというわけだ。

「サンキュー、日菜乃。」

 俺は相手の顔も見ずに、渡されたタオルでガシガシと頭を拭いた。

「大和君、お疲れ様。でも私は渡辺さんじゃないよ。」

 そう言われた俺は、タオルの隙間から相手の顔を覗き見た。

 不味ったな、日菜乃じゃない。

 そこにいたのは、勝手に親衛隊とか名乗ってグランドの端で騒いでる三人組だ。

「大和君、今日も格好良かったよ。」

「でもいつもより大和君にボールが行かなかったよね。」

「相馬が悪いんだよ。大和君に任せとけばいいのに、余計なことばっかりするから。」

 相変わらず煩い三人組だ。

 俺はチームメイトの事を悪く言われ、あからさまに不機嫌になったが、そんな事には全く気づかずに3人で好き勝手に喋っている。

「君たちさ、相馬は・・・。」

 これから広い視野を持てば、高梨先輩以上に上手くなると言おうとしたが、三人組のひとりが顔を近づけて、俺の言葉を遮った。

「もう、大和君。いい加減に私の名前覚えてよね。私は長嶋梨里。」

「私は山崎知里よ。」

「三浦玲奈で〜す。」

 正直、心底どうでもいい。

 部活後で疲れているという事もあり、何とか退散する理由は無いかと考えていたところ、丁度よく陸上部が練習を終えて部室棟に移動するのが見えた。

 もちろん、陸上部の集団の中には日菜乃の姿もある。

「ごめん、また今度。」

 俺はここぞとばかりに日菜乃に声をかけると、陸上部の方へと走り寄った。

 後ろで3人が何かを言っているが、知ったことではない。

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