第84話 幕間 〜 一ノ瀬瑞季
――ピンポーン。
聞き慣れたチャイムの音が家の中で響くのが聞こえる。
建売りであるため、私の家と晃君の家は基本的に同じ作りになっており、インターフォンも同じ物を使っているのだ。
いつまで経っても反応がないので、私はもう一度チャイムを押してみた。
やはり家の中で人が動いている気配はしない。
「もう!学校休んでどこ行ってるのよ!」
風邪で休んだ晃君のために学校で配られたプリントを持ってきたのだが、当の本人が家から出てこないと渡すこともできない。
ってか、何で晃君が風邪ひいてるのよ。
私の中では、風邪をひいた私を晃君が優しく看病してくれるっていう予定だったのに。
「ポストにでも突っ込んで帰っちゃおうかな。」
私は右手に下げたボヌールのビニール袋をチラリと見て、ため息をついた。
中にはカスタードプリンが3つ入っている。
3つというのは、晃君と晃君のお父さん、そして私の分だ。
・・・しまった。私のお父さんの分を買い忘れた。
「まぁ、いいか。」
晃君の家で食べちゃえば、お父さんにはバレないもんね。
私はもう一度チャイムを押してみたが、案の定中からは全く反応がない。
まさか、倒れて動けないとか?
緊急事態の可能性もあると思った私は、ドアノブに手をかけ、そっと引いた。
“カチャリ”という乾いた音を立てて、抵抗なくドアが開く。
「開いてる・・・。」
何て無用心なのだろう。
私は少し迷ったが、恐る恐る中に入った。
「こんにちは〜。」
中からはなんの反応もない。
本当に倒れているかもしれないと思った私は、非常識だとは思ったけれど、中に入ることにした。
「おじゃましま〜す。」
リビングのテーブルの上には、朝食だと思われる唐揚げとウインナーが残されていた。
「こんな油っぽいもの、朝からよく食べてれるわね。」
いや、残っているということは食べられなかったということか・・・。
「ひとまずプリンを冷蔵庫に入れよう。」
両手が塞がっていては何かあったときに困ると思った私は、プリンを冷蔵庫にしまうことにした。
私の名誉に誓って言うけど、決してプリンは冷たいほうが美味しいからとかいう理由じゃないからね。
えっと、冷蔵庫は・・・見事に何も入っていない。
夕飯どうするんだろ?晃君は料理ができないって言ってたけど、お弁当でも買ってくるのかな?
調子の悪いときにコンビニ弁当なんて食べても大丈夫なんだろうかという疑問は残るけど、まずは晃君を探すことが先決ね。
「自分の部屋かな?」
階段を上り、南東に位置する晃君の部屋をノックした。
「晃君、いる?」
やはり中からは何の反応もない。
さすがに部屋に無断で入るのは駄目だろうとは思ったが、ここまで何の反応も無いと、さすがに心配になってくる。
「開けるよ〜。」
私はドアをほんの少し開けて中を覗いてみた。
隙間から見えてきたのは、ベッドの上でスヤスヤと寝息を立てる晃君だった。
「何だ、何ともないじゃない。」
胸をなでおろした私は、ゆっくりと部屋のドアを開けて、部屋の中に入った。
「よく寝てる。」
誰かがここまで近づいてきたら、普通は起きるんじゃないかなぁ?
「ふふっ、可愛い寝顔。」
私は覗き込むようにして、晃君の寝顔を観察した。
「おい、晃。なんで君が風邪ひいてんのかな?」
鼻をつまんでみたが、全く起きる気配がない。
あれ?これってキスとかしちゃってもバレない感じ?
そう思ったら最後、私の視線は晃君の口元に釘付けだ。
柔らかそうな晃君の唇。
もう誰かが触れたことがあるの?
幼馴染の優愛ちゃんとは、本当はどういう関係なの?
あなたの中で、私の占める割合はどれくらいなの?
答えの返ってこない質問が、私の頭の中でグルグルと回っている。
晃君の唇と、私の唇の距離はほんの数センチ。
このまま私がちょっと顔を傾けたら、私の唇はあなたのもの。
心臓が激しく脈打つのが分かる。
ドキドキが止まらない。
自分の唇を晃君の唇にゆっくりと顔を近づけて・・・。
「晃ー!調子はどうだ?」
突然、勇斗くんの大きな声と共に勢いよくドアが開いた。
私は弾けるように晃君から離れて、何事もなかったかのように正座する。
勇斗君、もうちょっと空気読んで登場してよねっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます