第69話   幕間 〜 戸田美桜

 海沿いの道を自転車で進む私を、強い海風が吹き付ける。

 私は風にハンドルを取られないように注意しながら、家への道を急いでいた。

 西に傾いた太陽が峠に隠れようとしている。

 図書館を出る前に夕焼けチャイムが鳴ったから、きっと今の時刻は5時半ぐらいね。

 今日は少し遅くまで勉強してたから、夕飯の支度の手伝いはできなさそう。

 私は心の中でお母さんに「ごめんなさい」と思いながらも「テスト期間ぐらい手伝わなくてもいいよね」と、開き直ってみた。

 それにしても、さっきは余計なことを言わなくてよかった。

 いくら咲希が速水君のことを気に入っていたとしても、姉の口から「咲希と速水君って、お似合いだと思うの」なんて言われたら咲希だって怒るに決まっている。

 危うく、頼んでもいないのにお見合い写真を持ってくる、近所のお節介なオバちゃんみたいになるところだったわ。

 そういえば、咲希は速水君のどんなところを気に入っているんだろう。

 私は速水君のことを思い浮かべた。

 まず、結構優しいよね。

 友達も多いし、皆に頼りにされているのも分かる。それでいて威張った感じもないし、嫌味なところもない。

 あとは、意外としっかりしてるし行動力もあるわね。

 咲希が走っていっちゃったときは、真っ先に追いかけてくれたし、時間が遅くなってからも一緒に探してくれたし。

 そういえば、数学が得意そうだった。

 今まで数学が得意だった子も理系に分かれた直後は案外躓くものだけど、ノートを見た感じだと速水君にそういう感じはなかった。

 顔は・・・私は、あの優しそうな笑顔は嫌いじゃないない。

 清潔感があるところも、わたし的にはポイント高いよね。

 ・・・。

 違う違う、咲希がどう思っているかを考えているのであって、私がどう思ってるかはどうでもいいの。

 でも・・・私は速水君にどう思われているんだろう。

 ただの高校の先輩?

 手のかかる後輩の姉?

 それとも・・・。 

 答えの出ない疑問を頭を振ってかき消すと、私は勢いよくペダルを踏み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る