第67話   幕間 〜 木村大和

 帰りのホームルームが終わると、教室内は一気に騒がしくなった。

 その風景は見慣れたもので、帰り支度をする者、友達と雑談を始める者、ストレッチをして体を解す者と千差万別だ。

 いつもと唯一違うところといえば、テスト期間中は部活を自粛するように学校から言われているので、ほとんどの部活が休みとなっているところだろうか。

 当然のことながら、サッカー部も帰って勉強しろと指示が出ている。

 一教科でも赤点を取ったら部活前に校庭30周走れと言われているので、部員はみんな死にものぐるいだ。

「大和、駅前で買い食いして帰ろうぜ。」

 そう言ってきたのは、毎回赤点ギリギリで補習を回避している勇斗だ。

「勉強しなくて大丈夫なのか?」

 勇斗は頭の回転が早いから、勉強をやればできるとは思うのだが、あまり勉強をやっているところを見たことがない。

 典型的なYDK、つまり『やればできる子』なのだと思う。

「まぁ、ボチボチやるよ。」

 きっと今回のテストも飄々とこなして、赤点組から疎まれるのだろう。

「俺は大人しく帰って、テスト対策をするよ。赤点取ったら、校庭を走らされる事になってるから。」

 授業は理解しているから、少し復習をするだけで大丈夫だとは思うけど、見落としてるところがあると悲惨なので、俺はテストの前に範囲を一通り確認することにしている。

「大和が赤点ねぇ。まず無いと思うけどな。」

 今まで赤点を取ったことはないから大丈夫だとは思うが、俺の性格上、準備を怠ることはしたくない。

 問題点を見つけ、対策して、本番に臨むからこそ最高のパフォーマンスを発揮することができる。

 やってることはサッカーと同じだな。

 そういえば日菜乃はテスト対策はどうするのだろう?

 晃の家でやる勉強会には参加しないと言っていたから、自分でコツコツとやるのだろうが、俺としては少し寂しい気持ちがある。

「なぁ、日菜乃。」

 教材を揃え、スポーツバッグの中に丁寧に詰めている日菜乃に声をかけた。

「中間の勉強だけど、晃んとこ行かないならさ・・・。」

 デートに誘うわけじゃない。

 仲の良い友達を勉強を誘うぐらいは、変に思われることは無いはずだ。

 自分にそう言い聞かせて声をかけたものの、俺の心臓は部活でダッシュ30本やらされた時以上に早く脈打っている。

「俺と一緒に・・・。」

「ゴメン、急いでるから。」

 自分の席でシミュレーションを5回ほど行ってから、意を決して声をかけたのに、日菜乃は俺の言葉を遮るようにスポーツバッグを肩にかけ、教室を後にしてしまった。

 俺は何が起こったのかしばらく理解できず、日菜乃のいなくなった席で佇んでいた。

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