第65話   幕間 〜 渡辺日菜乃

 刺さるような視線を感じるようになったのは、1ヶ月ほど前だろうか。

 最初は気のせいかと思っていたが、その視線を感じる頻度は日に日に増し、今では廊下に出るたびに感じるようになっていた。

 まただ。

 視界に入るか入らないかの位置から、こちらを睨むように送ってくる不躾な視線。

 何かをしてくるということはないが、こうも頻繁だと、さすがに私もうんざりしてしまう。

 長嶋梨里、山崎知里、三浦玲奈。

 顔を隠すこともなく、ここまで堂々と睨まれてしまうと、私としても覚えたくもない名前を覚えざるを得ない。

 『大和親衛隊』とか言って、3人で大和の追っかけをしている子たちだ。

 何かと大和といっしょに行動することが多い私の事を、彼女たち3人が煙たがっていることは前から知っていた。

 別に好きな男子の応援をするのは勝手だけど、私を巻き込むのはホントやめてほしい。

「渡辺ってお尻デカいのに高跳びとかやって、マジウケるんですけど。」

「自分が可愛いとか思っちゃってんだろうね。」

「ちょっと、アイツに聞えちゃうよ。」

 聞こえてるよ、ハッキリと。

 高校に入ってからは、大和や晃君、勇斗君に優愛ちゃんみたいな仲の良い友達ができたが、もともと私は人付き合いが得意な方じゃない。

 いじめられたという経験はないけど、女子特有の「みんな一緒」という意識が薄い私は陰口を叩かれることは少なくなかった。

 そういうときの対処法は知っている。関わらなければいいのだ。

「日菜乃、どこ行ってたんだ?」

 教室の入口から顔を出した大和が、私の顔を見て嬉しそうな声を出した。

「今日も部活だろ?部室まで一緒に行こうぜ。」

 大和の笑顔を見て、私の心臓は一際大きく脈打つ。

 しかし同時に感じる、後ろからの刺すような不躾な視線。

 私は大和を避けるように目を伏せ教室へと入ると、既に身支度の終わっているスポーツバッグを肩にかけ、足早に教室を後にした。

 関わらなければ全てがうまくいくのだと、言い聞かせながら。

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