第56話 幕間 〜 渡辺日菜乃
青空がどこまでも続き、空気は透き通っている。
今日は風も弱く、レジャーには丁度いい陽気だ。
峠のバーベキュー場に行った晃君たちは、きっと今頃楽しんでいる頃ね。
私は自然と峠方面に視線を移した。
残念ながら私と大和は部活があって参加できなかったけど、もし参加できたらきっと楽しかっただろうなと思う。
相変わらず晃君と勇斗君がふざけて、優愛ちゃんの機嫌を悪くしてるのかな?
みんなの様子を想像するだけで、自然と顔が綻んだ。
「日菜乃、サボるな〜。」
グラウンドの周りを走っているサッカー部の集団の先頭から大和の声がした。
大和は足の速い人が揃っているサッカー部の中でもずば抜けて足が速く、短距離走の選手として陸上の試合に出てもインターハイを狙えるほど。
一度、陸上部に誘ったことがあるけど「みんなと協力して勝ち取る勝利が好き」と言っていた。
全くもって大和らしい答えだと思う。
大和の周りに先輩たちが走り寄り、大和の頭をくしゃくしゃに撫でながら、何やら談笑を始めた。
私に声をかけたことで、大和が先輩たちにからかわれているのかもしれない。
さてと、私も練習しなくちゃ!
気持ちを切り替えて、私は前を向いた。
エバーマットの前に設置されたバーの高さは、150センチメートル。
最近の私の記録は、この高さで停滞状態だ。
この記録は県大会ではそこそこ上位の順位に食い込めるが、インターハイで戦えるほどの高さではない。
集中!
集中!
周りの声が聞こえなくなるほど集中しなければ、この高さは跳ぶことができない。
頭の中でリズムを取る。
最初はゆっくり、そして徐々に早く。
「ねぇ、勘違い女が跳ぶよ。」
え?・・・何?
風で流れてきた声とかじゃない。
明らかに私に向けられた言葉。
「大和君も可哀想よね。あんな女に付きまとわれて。」
誰?
もう目の前にバーが迫っている。声の主を確認している暇はない。
私は中途半端な体勢で跳んでしまい、バーと一緒に背中からエバーマットに突っ込んだ。
「痛っ。」
笑い声とともに走り去る人影が3つ。
知らない顔。
・・・いや、あの三人組は見たことがある。
『大和親衛隊』とか言って、いつもサッカーコートの横で大和に声援を送ってる人たちだ。
何であの人たちが私に?
私は訳も分からず、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
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