第43話   幕間 〜 戸田咲希

 結局、夕日には間に合わなかった。

 隣には晃先輩はいない。

「私、何やってるんだろう。」

 私は灯台に設置されている展望台から、既に濃紫色に染まってしまった海を眺めていた。

 目の前に広がった暗闇の中では、既に空と海との境目は判別できず、大きな音をたてる潮騒だけが不気味に蠢いているのが分かる程度だ。

「っていうか、考えただけでムカつく。結局、あの男もお姉ちゃんの味方かよ。」

 あの男というのは、当然のことながら晃先輩だ。


 ――お姉ちゃんは優等生で、私は劣等生。

 ――お姉ちゃんは可愛くて、私は可愛くない。

 ――お姉ちゃんは素直で、私は生意気。


 お姉ちゃんは、お姉ちゃんは、お姉ちゃんは・・・。

 散々言われてきた言葉。

 誰も私には期待などしていない。

「こんな物っ!」

 私は手に持っていた雑貨屋の小さな紙袋を振りかぶり・・・そのまま力無く腕を下ろした。

「晃先輩がお姉ちゃんの味方だなんて、最初っから分かってたじゃない。」

 私が晃先輩に近づいたのは、晃先輩のお姉ちゃんに対する気持ちを利用して、お姉ちゃんに何か嫌がらせができないかと考えたからだ。

 こんな私が晃先輩に対して腹を立てるなんて、お門違いも甚だしい。

「・・・寒い。」

 4月に入り段々と暖かくなってきたとはいえ、この季節は日が落ちると途端に気温も落ちてくる。

 カーディガンでも羽織ってくるんだったな。後悔先に立たずとはこの事だ。

 私は両腕を強く体に巻き付け、展望台のベンチに腰掛けた。コンクリート製のベンチは、私の体から容赦なく体温を奪っていく。

 風が強くなってきた。

 私は少しでも温かいようにと、ベンチの上で膝を抱え、その膝に額を押し当てて目を瞑った。

 変わらず聞こえてくる潮騒の不気味な音。

 私は軽い恐怖を覚えながらも、まだ家に帰る気にはなれなかった。

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