第39話   幕間 〜 一ノ瀬瑞希

 夕暮れ時。

 西の海に沈む太陽は、真っ赤になってこの街を彩る。

 それは南向きに建てられた校舎であっても同様で、窓から斜めに差し込む夕日は教室内を憂いを帯びたオレンジ色に染め上げた。

 いや、憂いを帯びているように見えるのは、私の気持ちの問題か・・・。

 私は後ろの席の机の上に置きっぱなしになっている通学バッグを、なんの気無しに眺めていた。

「まったく、どこ行っちゃったのよ。」

 別にバッグの持ち主である晃君が、どこに行こうが彼の勝手であることは重々承知しているし、一緒に帰る約束をしている訳ではない事も分かっている。

「・・・バカ。」

 私は自分の両腕に顔を埋めて呟いた。

 校庭から聞こえる声も段々と少なくなってきた。そろそろ運動部も活動を終え帰宅する時間なのだろう。

「あぁ、もう!なんで私がこんな気分にならなきゃなんないのよ!」

 私は、両手を自分の机に勢いよく叩きつけて立ち上がった。


 ――ガタガタッ


 同時に聞こえる大きな音。

 私が出した音じゃない。聞こえてきたのは教室の後ろの出入り口あたりからだ。

「ごめんなさい。急に大きな声がしたから、びっくりしちゃって。」

 そこにいたのは弓道部の部長さん。確か名前は・・・戸 田美桜先輩。晃君の片思いの相手だ。

「こちらこそお騒がせしてすみませんでした。どうしたんですか?2年生の教室まで来て。」

 私は自分の言葉に棘がある事に気づいていた。

 これは、いつまでも帰って来ない晃君にイライラしているのか、それとも・・・。

「生徒手帳を拾ったから届けに来たんだけど、いないみたいね。明日職員室に届けに行くからいいわ。」

 教室を見回して、私以外は誰もいない事を確認した戸田先輩はそう言うと、静かに扉を閉めて去っていった。

 再び訪れた静寂の中、誰もいない教室の中でひとり佇む私は、なんの気無しに窓の外を見た。

 サッカー部が練習している。たった今シュートを放ったのは大和君だ。

 豪快に蹴ったボールはゴールから大きく外れて、誰もいないグランドの奥の方へ転がっていった。

 大袈裟に悔しがる大和君。その姿は教室内で見る少し控えめな彼と、同一人物とは到底思えない。

 どうしてサッカーをやっている人は、あんなにオーバーリアクションなのだろう。

「大和君にもラテンの血が流れてるって事ね、きっと。」

 何故だかサッカー部のキャプテンに怒られている大和君を見ながら、私は微笑んだ。

「あれ?なんで瑞希がいるの?補習か?」

 私の後ろに位置する教室の前側の扉が開き、続けて晃君の声がした。

 ・・・補習たと?

 この瞬間、晃君にはたっぷりと埋め合わせをさせることが、私の中で決定した。

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