第35話 幕間 〜 佐々木優愛
新しいクラスは女子バスケ部の部員も多く、気心が知れたメンバーが揃っている。
文系クラスといった事もあり、苦手な数学の授業が少ないのも気に入っている。
「はぁ。」
頬杖をついた私の口からは、意図せず溜息が漏れていた。
「元気ないじゃん、どうしたの?」
前の席から話しかけてきたのは、加藤真紀。私と同じ女バスのメンバーだ。
小柄な体格を逆に生かした素早いカットインと、スリーポイントシュートを武器としたスモールフォワードで、私と同様に一年生の時からレギュラーとして試合に出場している。
「別に、いつもと変わらないよ。」
私は真紀に笑顔で答えた。
「そんな事ないよ。『佐々木アンニュイ優愛』になってるよ。」
「変なミドルネーム付けないでよ。」
新しいクラスは気に入っている。
でも、何か物足りない。
何が足りないのかも分かっている。今まで当たり前のように隣りにいた二人が、このクラスにはいないのだ。
そして特に今日『アンニュイ優愛』になっている理由がある事にも私は気づいていた。
登校時に晃がいつも下ってくる坂道。
その坂道で晃の姿を見つけた瞬間に、私は思いっきりペダルを踏み、自転車を加速したのだ。
だって、晃の自転車の後ろに瑞希ちゃんの姿があったんだもん。
瑞希ちゃんがいい子なのは、私だって分かっている。
でも急に現れて、私がいたはずの居場所にいつの間にかすっぽりと収まっている彼女と、どう接していいか分からないっていうのも正直な気持ちだ。
「優愛〜、優〜愛〜。」
真紀の言葉で我に返った。
「大丈夫?だいぶ呆けてたよ?」
ヒラヒラと私の目の前で手を振る真紀。
「よだれが垂れてなければ、オールオッケー!」
「・・・。」
うぅぅ、真紀の視線が冷たい・・・。
「というか、早くお昼食べてくれば?晃君たち食べ終わっちゃうよ?」
そう言って真紀は、鞄から女子にしては少し大きめな弁当箱を取り出した。
「晃とは、そういうんじゃないから!」
「はいは〜い、分かったから早く行きな。」
「絶対、分かってないでしょ?!」
とはいえ、お昼ごはんにありつけないのは困る。
真紀の誤解は後で解くことにして、私は急いで学食へと移動した。
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