第26話 幕間 〜 戸田咲希
不自然なほど明るい調子の音楽の中、私は欲しくもないぬいぐるみを狙ってクレーンを操作している。
一度はぬいぐるみを持ち上げる事ができるが、クレーンの力は弱く、すぐにぬいぐるみを落としてしまう。
分かっている。クレーンの挟む力は、取れそうで取れない程度に調整してあるのだ。
それでも、もう一度、もう一度と百円玉を投入してしまう。
「ダメだ。そろそろ止めよう。」
5枚目の百円玉がUFOキャッチャーに吸い込まれ、そろそろ潮時かと振り返った時、彼がゲームセンターに入ってきた。
確か、晃先輩とかいう名前だったと記憶している。
お姉ちゃんに惚れているけど話しかけられず、1年もの間ただ眺めているだけで満足している根性なしだ。
恋愛経験の乏しいお姉ちゃんにけしかけるのも面白そうだと思って顔を覚えていたけど、こんなに早くに遭遇するとは思ってもいなかった。
「君、ひとり?どこの学校?」
意識を晃先輩に集中していたら、意図しないところから声をかけられた。
何?ナンパ?
声をかけてきたのは3人組の男達。
少し年上。大学生だろうか?
「一人なら俺らと遊びに行かない?車あるし、海辺を走りに行こうよ。」
はあ、ホント迷惑。
どこかに行ってくれないかな。
「ちょっと、しつこいんですけど。」
少しだけ強めに言ってみたけど、ニヤニヤするだけで効果は無かったようだ。むしろ楽しんでるようにも見える。
「良いじゃないか。ちょっと遊びに行くだけだし。」
一番背の高い男が手を握ってきた。
マジでありえないんですけど!
「触らないで!」
ヤバい。振りほどいた手が男の顔に当たった。
「痛ってえな。」
男の表情がみるみるうちに険しくなる。
男性を見て初めて怖いと思った。
周りを見回したが、さっきまであんなにいっぱいいた人たちは、晃先輩以外は皆いなくなってしまった。
当たり前だ。自分からトラブルに関わろうとする人なんているわけ無い。
この状況をどうやって打破しようかと迷っていたら、晃先輩が一歩前に出て右手を上げた。
まさか!助けてくれるの?!
でも気が変わって、どこかに行ってしまうかもしれない。
晃先輩は今にも声を発しようとしているように見える。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。1秒がとてと長い時間に感じる。
ダメだ。待ってられない。
「遅いよー。あんまり待たせるからナンパされちゃったじゃない。」
声の震えを何とか抑え、私はなんとか言葉を発した。
晃先輩、ホントごめん。
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