第24話 幕間 〜 木村大和
放課後。
スクールバッグも持たずに教室から出た俺は、体育館に続く渡り廊下から中庭へ抜け、指定された場所へと移動していた。
校舎と体育館の間にできた空間、通称『中庭』には大きな桜の木があり、昼食時に渡された手紙には、今日の放課後にその場所に来るように書かれてあった。
正直な事をいうと、こんな呼び出しなど無視してしまおうかとも思った。
しかし俺が来なかったことによって、ずっと待っていなければならない相手がいることを考えると、不憫でならないため、来たくもないこの場所に参上したというわけだ。
どちらにしろ、あまり楽しい時間にならないのは分かっていることなのだが。
「部活開始までには話を終わらせなきゃならないな。」
桜の花はすっかり散ってしまい、青々とした葉が茂っている。もう少し早い時期ならば、告白のロケーションとして最適なのかもしれない。
「先輩!来てくれたんですね。」
茶色く染めた髪を2つに結んだ、小柄で可愛い1年生。
間違いなく、今日の昼食時に手紙を渡してきたあの子だ。
少し気が強そうだけど、綺麗で整った顔立ち。
男性の心をくすぐる様な低い身長。
少し高めで愛らしい声。
目の前にして改めて思う。この子は可愛い。
「私、中野由紀と言います。受検の時に見かけてから先輩の事がずっと好きでした。」
でも、彼女の言葉は俺には届かない。
この子に俺のどこを好きになったのかと聞いたら、いくつの答えが出てくるのだろうか。
「私と付き合って下さい!」
勢いよく中野さんが頭を下げた。
一瞬の沈黙。
断らなくちゃいけない事は分かっている。
中野さんを傷つけないように断るには・・・。
「ごめん。」
いつもそうだ。うまい言葉が出てこない。
「どうしてですか?!」
どうしてって・・・俺は君の事を知らないのだから当たり前じゃないか。
「断るなら来なければよかったのに!変な期待持たせないでよ!」
中野さんから発せられた理不尽な言葉。
一方的に呼び出して、一方的に罵しる彼女。
自分は悪くないと思っていても、罵られればそれなりに心は傷つく。
中野さんが去ったあとに残るのは、どうしようもない罪悪感。
「いつも一緒だ。」
誰も俺の中身など見てくれてはいないのだ。
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