第14話   幕間 〜 渡辺日菜乃

 講堂の袖は狭い。

 この狭い空間に、陸上部の部員10名ほどが押し込まれている。

 現在、部活紹介をやっている弓道部が終われば、次は私達陸上部の紹介が始まるため、ステージ横の袖で待機しているのだ。

 人前に出るのは苦手だ。

 幼稚園の時のお遊戯会では緊張のあまり、台詞を忘れて立ち尽くしてしまったというトラウマがある。

「みんなー、準備は良い?」

 部長が客席には聞こえないぐらいの大きさで声をかけてきた。

 あぁ、嫌だ。

 呼吸も鼓動もどんどん早くなっていくのが分かる。

 そういえば、ユニフォームにおかしなところは無いだろうか?

 陸上部のユニフォームは、動きやすいように上下とも短めにできているので、少しでも崩れていると格好がつかない。

 蝶番が擦れる小さな音がして、講堂の袖から廊下へと続く扉が開いた。

「ちょっと早かったか。まだ陸上部がスタンバってるな。」

 サッカー部が入ってきたのだ。

 確か、陸上部の後に部活紹介をする順番になっていたと記憶している。

「おぉ、日菜乃〜。頑張ってんかぁ?」

 サッカー部の集団の中には、大和の姿もあった。

「大和、声でかい。静かにしろ。」

 サッカー部の部長に怒られる大和。

 大和は相変わらずのようだ。

「そろそろ日菜乃達の順番だな。」

 大和が皆を掻き分け、近づいてきた。

 ち、近いって。

 大和と私の距離は、殆どくっついていると言っていいほど近い。

 汗臭く無いかな?

 大和と少し距離をとって、自分の臭いを嗅いでみた。

「日菜乃達は何をやるんだ?」

 突然、大和が聞いてきた。

「えっと、部長の指示に合わせて、走ったり、飛んだり。」

「そっか。俺はリフティング。失敗したらどうしようかって、緊張しっぱなし。」

「部長さん、怖そうだしね。」

 ふたりでサッカー部の部長の方を見て、気づかれないようにクスクスと笑った。

「じゃあ、陸上部行くよ。」

 声がかかった。

 私達の出番だ。

 荒い呼吸と鼓動は治まっていた。

 代わりに、トクンと小さく心臓が脈打つ。

 決して不快な気分ではない。

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