第10話   幕間 〜 一ノ瀬瑞希

 真新しいブラウスに袖を通す。

 赤と黒、そして白で彩ったチェックのスカートを穿く。

 スカートと同じ柄のブレザーはリバーシブルになっていて、紺無地のブレザーとしても使えるようになっている。

 最後にオリーブ色のリボンを結んで終了。

「よしっ、完璧。」

 自分の部屋に立てかけてある姿見の前で一周回ってから、私はひとり呟いた。

 初登校は緊張する。

 新しい環境は楽しみであり、不安でもある。

 時刻は7時を少し過ぎたぐらいだ。登校するにはまだ随分と早いけど、朝食も食べ終えてしまったし、学校の準備も終わってしまった。

 何もしないでいると「ちゃんと学校に馴染めるか」などと余計なことを考えてしまう。

「晃くんは準備できてるかな。」

 私は出会ったばかりの隣に住んでいる同級生の事を考えた。

 港で釣りをしている人達に話しかけたら、隣に住んでて、しかも同級生って、いったいどんな奇跡だろう。

 文句を言いつつも、今日は一緒に登校してくれるあたりが、晃くんの人の良さを物語っている。

「瑞希、父さんはそろそろ会社に行くぞ。」

 一階からお父さんの声が聞こえてきた。

「はーい、いってらっしゃい。」

 少し早いけど、私もそろそろ家を出ようかな。

 こんなに早い時間に訪れたら、晃くんはどんな顔して扉を開けるのだろうか。

 起きたばかりの男子高生が、どんな格好でいるのかを予想するのは少し楽しい。

 もう着替えてるってことはないだろう。

 寝癖のついたぼさぼさの髪で出てくるのかな?

 パジャマかな?それともTシャツと短パン?

 そうそう「部屋に起こしに行く」っていうラブコメ定番のイベントがあっても面白いな。

 うわっ。私、今絶対にニヤニヤして気持ち悪かった。でも自然と口角が上がってしまう。

 私は玄関を開け、春の日差しに目を細めた。

 今日も良い天気になりそうだ。

 私は期待と不安を胸に、新しい一歩を踏み出した。

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