27

「魔物だ!」


 四人が一斉に武器を構える。青色の体毛を持つ大柄の魔物は、細かな牙を見せつけるように咆哮した。


「続けて攻撃、よろしく!」


 そう言いながら、リヴェルは大鎌を横に凪ぐ。ごう、という音とともに風の刃が発生、魔物の肉体を裂いた。僅かに血が吹き出す。


「……はっ!」


 ルウクは走りながら意識を集中させ、その手に大剣を創り出す。リヴェルの攻撃が止んだタイミングで間合いに到達。スピードを乗せたまま一閃。


「ォオオオオオッ!!」

「ぐっ!」


 逆上したように、魔物がぶ厚い爪をルウクに振り下ろす。大剣を横に掲げて防ぐが、魔物の攻撃は止まらない。何度もなんども、両手を繰り返し振り下ろしてきた。


「ーー『聖光の礫』!」


 エリシアの詠唱が完成し、彼女の掲げた杖の先から出現した光弾が一直線に魔物の頭目掛けて向かう。着弾。魔物のうめき声とともに連撃が止み、ルウクは後ろに跳び距離を置く。

 ーーその時、ルウクの目に飛び込んできたのは。体毛の隙間から見えた、魔物を魔物たらしめているコア。


「ーー『氷結の檻』!」


 瞬間。リヒトの身に纏う魔力が、彼の足元から伸びて魔物を縛り付け、瞬く間に氷漬けにする。しかし魔物は、戒めから逃れようともがいているのか、氷の中で僅かに身じろぎしている。


「今だ!」


 ルウクは大剣を握る両手に魔力を込めて、渾身の力で魔物を貫いた。もちろん、狙いはコア、ただひとつ。


「ガッ、ア、ア……!」


 氷が弾け、まるで光の粒のようにカケラが飛び散る。それとともに、魔物の血がルウクに降りかかった。更に魔物の断末魔の声が耳をつんざき、ルウクの鼓膜に不快な刺激を与える。

 ーーやがて、コアを壊された魔物の身体はボロボロと崩れ落ち、ジュッと蒸発するような音を立てて消滅した。同時に、魔物が流した血液も消えてなくなる。


「ルウク! 大丈夫? 怪我はしてない?」

「……ああ」


 唯一、魔物から直接攻撃を受けていたルウクを心配そう見つめるエリシアに、ルウクは問題ないと答える。エリシアはホッとしたように息を吐いて、良かったと呟いた。


「しかし、いきなり魔物が現れるなんてなぁ……」

「あそこから出て来ましたよね。もしかして、地下に何か……?」


 魔物のコアであった、マナストーンのカケラを拾い上げ溜め息を吐くリヴェル。こんな人が出入りしていただろう場所で魔物が現れるのは、さすがに予想外だったのだろう。

 リヒトは魔物が現れた穴へと近付き、警戒しつつも覗き込もうとする。


「待って、あまり不用意にはーー」

「あっ! って、……っ!?」

「リヒトさん!」


 リヴェルに制止され、慌てて離れようとしたリヒトだったが、さっき自分が使った魔法の氷のカケラで足を滑らせーー。


「うわぁあああ……っ!」


 そのまま、誰かが助ける間もなくーー真っ逆さまに、落ちていってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る