25
「みんな、起きて!」
まだ夜の闇が辺りを覆っている時間。リヴェルに揺り起こされたルウクが起き上がると、ちょうどエリシアやリヒトも目を覚ましたところだったらしく、小さく欠伸をしている。
「どうやら……動き出したみたいだ」
「えっ」
木々と茂みの間からそっと覗き見てみれば、聖者の小屋から出てきた二人の人間ーー昼間に話した二人だろうーーが、きょろきょろと周囲を見回しているところだった。その様子は明らかに警戒していて、他人に見られたくないのだろうというのが一目で伝わる。
「橋を渡って……あっちは、港町の方向?」
「いや……逸れた」
「あれは、なに? あの建物は……」
港町へと続く海岸沿いから外れた二人は、近くにある別の建物へと近付いていく。それは大きなバリケードに囲まれていて、こちらからは入口を窺い知ることは出来ない。
「あれは……確か、古い研究所だよ。マナと魔力の関連性についての研究所で、今はもう使われてないはずだけど」
研究内容などは移転先へと送られているため、現在はただ放置されているだけの場所だとリヴェルは解説する。
「なぜ、そんなところへ聖者さまが?」
「分からない。けど、何かあるのかも」
一行は、翌朝にあの研究所へと向かうことを決め、それまで再び休息を取ることにした(もちろん見張りはつけていたが)。
そして太陽が顔を出し始める頃。聖者らが小屋へと帰って、充分な間を置いてから。一行は研究所へと出発した。
研究所に到着した一行は、建物の外観を見渡す。
全体的に白色で、大聖堂には及ばないが広い。逆に高さはさほど無く、恐らくニ階建て程度だろうと予想できた。それらが大きなバリケードに、ほぼすっぽり収まるように建てられている。
「じゃあ、開けるよ」
全員が頷いたのを確認して、リヴェルは扉を開ける。四人ともが中に入り扉を閉めると、僅かにひんやりとした空気が漂った。意外と中は割と明るく、日が暮れるまでなら捜査に支障は来さないだろう。
「どうかな、何か見つけた?」
「いくつかの部屋を見てみましたけど……特に何も」
しばらく手分けして探索してみたものの、特に目ぼしいものは見当たらない。
もともと中にあっただろう機械などは研究所の移動の際に持って行かれているのもあり、基本的にがらんどうだ。あるのはせいぜい、中身のなくなった本棚くらいか。
「……これは?」
「ん?」
「ルウク、どうしたの?」
皆がルウクのいたところへ向かってみると、そこには扉があった。やけに真新しい色合いで、他と違い埃も積もっていない。
「……本棚で隠れていた」
「パッと見わからなかったよ。よく気付いたね」
「……こいつが見つけた」
「きゅう!」
「フイ?」
ルウクの傍にいたフイが高らかに鳴いた。褒めて欲しいのか、その場をぐるぐると回っている。
「フイ、ありがとう」
「きゅうー!」
エリシアがフイの頭を優しく撫でる。フイは嬉しそうに彼女の手に頬を寄せた。
その間にリヴェルは扉へと手を当て、近くに設置されていた装置を眺める。
「これは……専用のカードキーか、もしくは魔力認証が必要なタイプか」
「魔力認証?」
「ほら、ここに手を翳せる場所があるでしょ? 事前に登録された人が魔力を込めると開けられるようになるんだ。……まぁ、便利な代わりにカードキーより正確性は低いんだけどね」
人は皆、体内のマナを魔力へと変換する『魔力回路』を持っている。その為、魔力の質(タイプ)は人それぞれ微妙に異なるのだ。
この装置はそれを利用し、登録された魔力の質を解錠に使うらしいが。
「魔力の質は千差万別といっても、似ている時もあってね。ごくたまに開けられちゃう時があるらしいんだ。特に血縁者は似通る傾向にあるみたいだってことも分かって、今はこういうタイプの鍵は廃止されてるんだよ」
そう言いながら、扉に取り付けられたカードキー周辺の機械をあちこち触るリヴェル。魔道具の製作の際にも機械は利用する為、こういった知識は『割とある』とは本人の弁。それにしたって詳しいのでは、ともルウクは思った。
「きゅう、きゅう!」
「えっ、何?」
フイがリヒトの服の裾をくわえ、ぐいぐいと引っ張り出した。どうしたのかと全員が注目すると、フイはリヒトをどこかへ連れて行きたいのか、彼が足を上げると一層強く引っ張った。
何を言っても口を離そうとしないので、とりあえずリヒトは従ってみる。と、件の扉の前まで来たら、ようやくフイはリヒトを解放した。
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