22

「あくまでオレの推測なんだけど、ちょっと……あの聖者たち、怪しいな」

「えっ!」

「り、リヴェルさん? 聖者さまですよ? 確かに、ちょっと冷たい感じだなとは思いますけど、大聖堂で認められた聖者さまが、まさか誘拐事件に関わってるだなんて」

「うるさい。静かにしろ」

「うっ、だ、だって……」


 遠くの林の中に身を隠しつつ、聖者の小屋を後ろから観察できる地点まで離れたとはいえ、あまり大声で話すような内容ではない。指摘されたリヒトは、不満げながら声を潜めた。


「……それは、どうしてですか?」

「うん。二人が信じられないのも分かるよ。とりあえずオレの話を聞いて欲しい」


 リヴェルは聖者の小屋を見つめながら、理路整然と言葉を並べていく。


「単純な話だよ。オレ達は、あの子から聞いた目撃情報を、そのまま彼らに話した。あの子の話では誘拐犯の性別は分からず、体格から『恐らく』男だと思う、ってね」


 その上で、目撃をしていないか、を彼らに問いかけた。……そうしたら、どうだ。


「なんて答えてきたか、覚えてる?『そのような男は、見かけておりません』って。一人が、そう言ったんだ」

「……!」


 エリシアとリヒトが目を見開く。腕組みをして聞いていたルウクは無表情のまま、耳を傾けている。


「やけに断定的な言い方をするなって思って、他に何かボロを出さないかと話しかけてたんだけど。フイの行動や、それに対して血相を変えた聖者の姿を見てさ。……怪しいなーって」

「で、でも! それは言葉の綾って可能性もありますし! フイのことだって、触られるのが嫌だっただけかもしれませんし……!」

「うん、確かにその通りだよ。でも、今のところ手がかりは何もないからね。可能性が少しでもあるなら、疑っておいた方が良いと思うんだ」

「…………」


 フイが、なぜあんなことをしたのか。それは分からないが、フイにとって『気になるもの』がそこにあったのだろう、とリヴェルは推察する。もしかしたら、何かを隠しているのでは、と。


「エリシアちゃん、どうかな?」

「……その。……」

「少年はどう思う?」

「……あんたに同意するのは癪だが」

「なんで!?」


 フンと鼻を鳴らすルウクに対し、わざとらしく泣き真似をするリヴェル。しかし、それにも何一つルウクが反応しないのを見て、ガックリと肩を落とした。


「あ、あの。……私、考えてみて。確かにリヴェルさんの言う通り、その可能性があるなら、確かめた方が良いかなって……」

「エリシアさん!?」

「だって、リヴェルさんが言ってたこと、確かに気になるから。他に出来ることもないし……」

「う、うーん」

「リヒト。それとも、他に何か気が付いたことでもあるの?」

「……」


 リヒトは困ったように目を逸らすと、左手で耳付近の髪を弄り、耳につけたイヤリングを触る。


「……そうじゃないんですけど。だって、聖者さまが、そんな……犯罪じゃないですか」


 歯切れ悪く言うリヒト。確かに、それはその通りではあるが。


「聖者だって、聖者である前に人だからね。何か間違いを犯すことだって、有り得ない話じゃないよ」

「……。そ、そうですよね。うん、そう……」

「リヒトさん……? 大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だよ」


 ーーすみません、とリヒトは謝る。気にしないで話を進めて下さい、とも。

 エリシアとリヴェルは少し気にしているようだったが、とりあえず話題を次に進め始めた。

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