21
一行はまず、村から歩いてニ時間程度の地点にある『聖者の小屋』へと向かった。
そこには、大聖堂から派遣された聖者たちがおり、それぞれ指定された範囲での納金の徴収や街・村の視察などを行っている。先日に村へ訪れた聖者らも、そこからやってきたはずだ。
村の少年からの目撃証言によれば、ミナは大柄の人間に背負われて、村の外へ連れて行かれたという。
暗く距離もあり、その人間の顔は見ていないが、体格的に恐らく男性であるらしい。出て行った方向からして、聖者の小屋でなら新たな目撃情報が見つかるかもしれなかった。
……しかし。
「いえ。そのような男は、何も見ておりません」
「私たち聖者は、規則正しい生活を基本としておりまして。その時間は、就寝時間でありましたから」
「そうですか……」
やってきたものの、聖者たちは冷たい声色で答える。空振りに終わったことに、エリシアやリヒトは肩を落とした。
「…………」
二人の後ろから、リヴェルは神妙な表情を浮かべているのを、隣でルウクは目にした。と、リヴェルの表情は瞬く間に普段通りの明るいものに戻り。
「……ところで。ここには、あなた方しかいらっしゃらないんですかね?」
「ええ。今、ちょうど出払っておりまして……」
「へえ、大変ですね。どこへ行かれたんです?」
「この近くに橋があるでしょう? そこを渡って、海岸沿いに歩いた先にある港町ですよ。納金の徴収や、結界に異常がないかのチェックなどがありましてね」
「そうなんですか。それはお疲れ様です」
そんな実にもならなさそうな会話をしていると。
「きゅうっ!」
「えっ、フイ!?」
突然のことだ。エリシアの肩に乗っていたフイが、前に立っていた聖者の肩へと飛び移った。そしてクンクンと匂いを嗅ぐと、やがて聖者の懐の方へ足を伸ばす。と、
「……ッ!!」
「きゅうぅ!」
「フイ!」
驚愕から憤怒へと表情を変えた聖者が、止める間もなくフイを鷲掴みにし、思い切り投げつけた。あわや壁に叩きつけられるかと思われたが、ちょうど近くにいたリヒトが慌てて受け止める。
「だ、大丈夫?」
「きゅ、きゅう……」
「……全く、躾のなっていない獣ですね」
「も、申し訳ありません!」
エリシアが頭を下げると、聖者らは機嫌を損ねたように揃って眉をしかめ、もう出て行ってくれと一行へ告げた。
どちらにせよ、これ以上ここにいても何も変わらないだろう。一行は聖者の小屋を出た。
「フイ、どうしてあんなことしたの? 怪我をしなかったことにはホッとしたけど、知らない人に失礼なことをしちゃダメだよ」
「きゅう……」
「……俺には、元々ああだった」
聖者の小屋から出て、少し離れたところでエリシアは胸に抱いたフイを咎める。
隣にいるルウクが、フイが初対面から自分に懐いて(?)きたことを恨みがましく言うと、エリシアは声を詰まらせつつ。
「そ、それは……懐いてる、としか言いようがないけれど。少なくとも私が知ってる限りでは、知らない人に普段あんなことしないよ」
「確かに、僕にもあんなことしなかったし……どうしたのかな」
「きゅう。きゅきゅきゅ、きゅうっ!」
「うーん……」
「言っていること、分かったりしない?」
「なんとなく、でしか……。多分、あの聖者さまが持っているものの中に、気になるものがあったみたいで」
「持っているもの、か」
リヴェルは顎に手を当てて暫く考えるような間を置くと。
「ちょっと、ここを離れようか。話したいことがあるんだ」
そう小声で伝えると、リヴェルは皆を促しつつ歩き出した。エリシアとリヒトが訝しげに顔を見合わせつつ、それに従う。
ルウクは、何となくリヴェルの言いたいことに勘付いていた。が、それならば尚更、この場で話すようなことでもない。無言で他に着いていった。
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