20
* * *
「……みんな。ごめんなさい」
その後。提案を受け入れられた四人が村を出る直前に、エリシアが皆に向かって頭を下げた。
「エリシアちゃん、どうしたの? そんな謝られるようなこと、してないでしょ?」
「私、みんなの意見も聞かずに、ミナちゃんを捜すって言っちゃって。本当は、先を急がなきゃいけないのに……」
「そんな! 僕の疑いを晴らそうてしてくれたんだから、むしろ僕の方がお礼を言わなきゃ」
「ううん。そんなことないよ。……リヴェルさんにだって、もっとよく考えてから行動しなきゃって言われたのに」
「……」
エリシアは口を結んで俯いた。が、すぐに顔を上げて。
「ーーでも。私、我慢できなくて。目の前で困ってる人がいたことも。子供が攫われたことも。そして、リヒトさんが疑われたことも」
海色の瞳に、強い光を宿して。エリシアは静かに、しかし確固たる力を籠めた声色で続ける。
「本当は、旅を急がなきゃいけない。でも、それで人の気持ちを見て見ぬふりも、したくないの。出来る限りのことはしたいの」
「……もし、それで。エリシアちゃんが本当に大変な時、自分のことで精一杯な時に、誰かが助けを求めてきたら、どうするの?」
「それは……」
リヴェルの問いに、エリシアは胸に当てた手を、ぎゅっと握り締める。きっとつい昨日までであれば、それでも助けたいと即答したのではないか、とルウクは推測していた。
しかし。人の出来ることには限界があるーーそうリヴェルに指摘されたことを思い出しているのか。エリシアは一瞬だけ言い及んだ。そして長い間の後に、意を決したように答える。
「それは、わからない。……その時に、私がどうなっているか、わからないから」
それでも。
「それでも。今のこの時間は、『今』しかないから。今の私が出来ることがあるなら、そうすることで誰かが助かるなら、……そうしたいよ」
「……。うん、そっか」
エリシアの答えに、リヴェルは深刻な表情から一転、笑顔に変わり。重苦しい空気を吹き飛ばすように頷いて。
「それがエリシアちゃんの答えなら、オレは着いていくよ」
「で、でも。結局、みんなの考えを聞かずに決めちゃったことは変わらないから。だから、」
「なーに言ってんの。この中ではエリシアちゃんがリーダーなんだから、リーダーの言うことには従わなきゃ!」
「えっ? り、リーダー?」
ね、とリヴェルがルウクとリヒトに目配せする。確かに、聖女と護衛という立場を考えれば、一番の決定権は聖女であるエリシアにあるーーつまりリーダーであると捉えても可笑しくはないかもしれない。
「僕も同じ気持ちだよ。やっぱり、見過ごすのは何だかモヤモヤするし……色んなこと、気になるから」
自分と瓜二つの人間。それが兄のことなのか否か。そこもリヒトにとっては気になる点だろう。
「それに、さっきも言ったけど、エリシアさんは僕のことを庇ってくれた。だから、僕もエリシアさんの手助けをしたいんだ」
「リヒトさん……」
エリシアはリヒトと頷き合い。次いで、ずっと黙り込んでいるルウクへと顔を向ける。その表情は、とても不安げで。それを見たルウクは、少しムッとした。
「ルウク」
「……不安なのか」
「えっ。そ、そう見える……?」
「さっきまでと違う」
ーー俺に対してだけ、そんな顔をするのか。
ルウクは心の中で文句を言った。勿論それはエリシアに届いてはいないが、感情は声に乗っていたらしい。エリシアは困ったように眉を寄せて、ごめんねと言う。
「ルウクは、どうしたい?」
「……行かない、とは言ってない」
「そっか……良かった」
「……お前の旅なんだ。お前の行くところに行く」
「! ……うん。ありがとう、ルウク」
ルウクの答えに、エリシアは微笑む。その笑顔が、どこか寂しげに見えた。
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