10
「み、みんな、大丈夫……?」
「へーきへーき! ね?」
「……」
用の無くなった大剣を消して、ルウクはエリシアの方を振り返る。エリシアの顔色は遠目から見てもあまり良くない。魔物との戦いなど初めてだろうから、当たり前なのかもしれなかった。
「うわぁ……これが魔物の心臓って考えると、ちょっと惨いかも……」
エリシアの元へと歩くルウクと擦れ違い、砕けた魔物のコアを見下ろしながらリヒトは呟く。彼も魔物との戦闘の経験は全く無さそうだが、エリシアよりも落ち着いている。
「……大丈夫か」
「! わ、私は平気。それより、ルウクの傷を見せて」
「?」
「さっき、怪我をしたでしょ?」
確かにそうだが、この程度は何ともない。しかしエリシアが切迫したような声で言うものだから、大人しく腕の傷を見せる。
そこに手を伸ばしたエリシアは、しかし一瞬ためらったように手を止める。が、すぐに傷口を避けつつルウクの腕を取り。もう片方の手に持つ杖を、そっと傷口に翳した。
「ーー」
「……!」
目を閉じて、エリシアは小声で何事かを唱える。と、エリシアの周囲に青白い光が広がり、それが杖を通して傷口へと降り注いでいく。……これは。
「治癒魔法? 凄い……!」
ーー聖者さまの中でも、ほんの一握りしか使える人がいないのに。そうリヒトが感嘆の声を上げた。
光はルウクの中に吸い込まれ、みるみるうちに傷口が塞がっていく。そして傷が完全に消えた時、光はふっと消えた。
「大丈夫? 痛くない?」
「……あ、ああ」
ーー昔との違いを新たに見つけたからか。自然とルウクの返答は歯切れが悪かった。
「みんな、ごめんなさい。私、ちゃんと戦えなくて……」
どうやら治癒魔法だけではなく、聖堂で習った光魔法も使えるらしいのだが、場の空気に飲まれて動けなかったとのこと。
謝罪しつつ頭を下げるエリシアに、リヒトやリヴェルは気にしなくて大丈夫だと口々に声を上げる。
「……別に問題ない。護衛対象はお前だ」
「……うん。ありがとう、みんな。でも、これからはちゃんと戦えるようにしたい。ただ見ているだけじゃなくて」
それに、多少は攻撃魔法も使えた方が、いざという時に役に立つかもしれないから、と。そう言いながら、エリシアはぎこちなく笑った。
「でさ、少年のそれは何?」
「……あんたと同じようなものだ」
体内の魔力を練り上げて、武器を創り出す。それは、三節棍の先に刃を創り大鎌へと変えたリヴェルと理屈は変わらない。ーーただルウクの場合、何もないところから武器を創り出しているというだけだ。
「うーん……いまいちよく分からない……」
「簡単な話だよ。『こんなものが欲しいなー。出ろー。出ろー』ってイメージしてるだけ。ただ、少年みたいに武器自体をまるまる創り出す人は、オレも初めて見るけどね」
いつから使えたのか、とリヴェルから問いかけられ。人と話すことに躊躇いがあるルウクは、普段以上にボソボソした声で答える。
「……偶然だ。育ての親と旅をしていた頃」
そんな力があると判明してから、育ての親であるシレーヌはルウクに『力を利用して戦う』特訓を課した。イメージしてから創り出すまでのスピードや瞬発力、あらゆる武器を使えるようになる為の師事。ーーそれらが全て、今のルウクの生きる術となっているのだ。
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