9
ルウクは気配の方へ振り向く。
「どうやら、お出ましみたいだね」
「えっ?」
「みんな、気をつけて。ーー魔物だよ」
それを掛け声にしたかのように、草むらの中から緑色の光がぼんやりと立ち登る。そして一瞬キラリと光ったかと思うと、
「!」
「ルウク!」
「……下がっていろ」
ルウクの腰ほどにまで巨大化したネズミのような魔物が二体、一直線に向かって来る。ルウクは即座にエリシアを後ろへやり、手を魔物の方へと伸ばす。
「な、何やってるのさ! 武器も無しにそんな……!」
「! いや、これは……!」
他の人間の声を遠くに聴きながら、ルウクは伸ばした手に意識を集中させる。イメージするのは、魔物を屠り、また身を守る盾にもなるーー。
「ギギッ……!?」
ルウクを切り裂こうとしていた魔物達の鉤爪が止まる。ガキン、と金属がぶつかり合うような音。人間の肉の感触ではないことに、魔物は困惑したように鳴く。
「!」
「……」
空気が固まってしまったのか。エリシア達、魔物でさえも、動けない。
ほんの瞬く間だった。ほんの一瞬で、ルウクの手にーー剣が握られていた。彼の背丈ほど長く、そして魔物の視界を塞ぐほどに分厚い大剣。
「ギッ!?」
刹那。ルウクは大剣を下に構えた状態で踏み込み魔物を突き飛ばす。魔物は前方に飛んでいく。地面に落ちる。転がる。ーー当然、起き上がるまで待つつもりはない。
一目散に走る。剣の大きさ重さなど、ルウクには関係なかった。
「終わりだ!」
「ギャッ……!」
充分な間合いをはかり、ルウクは大剣を振りかぶりーー振り下ろす。その様は斬るというよりも叩きつけるという表現の方が正しい。
魔物は潰れたようなうめき声を上げて、一匹は身体が崩れ落ち、すぐに蒸発するように消え去る。
「ちっ」
もう一匹は外したか、とルウクは舌打ちする。
勿論、攻撃は当たっていた。が、魔物にはコア(核)というものがある。それを砕かなければ仕留められない。
「ーー『氷結の御柱』!」
「!」
瞬間。後ろから迫りくる冷気と、リヒトの声にルウクはハッとした。シレーヌと別れてから今まで一人で戦うことしかしてこなかった為に、味方の存在を忘れていた。
「くっ……!」
まるで道筋を作るように、氷が地面を走り、こちらへ向かってきた。ルウクは慌てて魔法の範囲から避けようとするもーー足が滑りよろめいた。
「ギギギ!」
「っ!」
「ルウク!!」
その隙を逃さないとばかりに、魔物がルウクへと飛びかかり鉤爪の横薙ぎ。右腕に痛みが走る。掠った程度だが、傷口からは血が流れた。
「グッ……!」
しかし、ルウクに気を取られていた魔物はリヒトの魔法ーー地面から飛び出た氷柱を受けて悲鳴を上げる。しかしそちらも掠っただけ。決定打ではない。
魔物は不敵な笑みを浮かべ、再びルウクへと狙いを定めた。
「少年、後ろに跳んで!」
「!」
聴こえた指示に、何を思うより前に従う。ルウクが跳び退いた直後、横へ擦れ違う影ーーリヴェルだ。
「そろそろ終わりにさせて貰うよっ!」
リヴェルが手にするのは、恐らく三節棍。しかし普通と違うのは、その先に三日月型の刃があることだろう。刃は青白く透けており、彼の魔力で生み出したものだということは見て取れた。ーーこの状態は、大鎌と呼ぶ方が相応しいかもしれない。
「よーい、しょおっ!」
リヴェルは大きく振りかぶって、右足で踏み込みながら大鎌で空気を薙ぐ。すると、
「ン、ギギ……ギッ!」
細かな風の刃が、一斉に魔物へと襲いかかった。魔物は吹き飛ばされないよう踏み留まるが、容赦なく風の刃が身を切り裂いていく。一つ一つは小さな傷でも、それらが繋がって大きな傷跡になっていった。
魔物の青い血が吹き出て、風に乗って飛んでいく。
「ギッ……ギャッ!!」
やがて、魔物の足が地面から離れ、後ろへーーリヒトの魔法で生み出された氷柱へと、導かれる。
魔物の身は、あえなく突き刺さり。最初は悲鳴を上げていたが、だんだんと身体から力が抜けていき。……ぱきん、とコアが壊れる音が響いた。
「ギ……ィ……。…………」
魔物が完全に動かなくなると、その身体は割れたガラスの破片のように、崩れ落ちて。ジュッと音を立てた瞬間、流した血もろとも消滅した。
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